「飛松灯器」がスウェーデンで人気、欧州人を魅了する磁器の繊細光

ヨーロッパで注目される、日本人磁器照明作家 飛松弘隆氏のランプシェード

ヨーロッパでの手応え

2024年にスウェーデン・ストックホルム家具見本市で初めてローンチして以来、ヨーロッパで何度か展示会に出展してきた。磁器とは思えない質感で、繊細な光を放つため、写真よりも実物を見てもらうのが重要だという。北欧の冬は日本では想像できないほどに暗いが、それだけ光の表情に対して敏感で、照明に対する人々の目は肥えている。それでも、見たことのない光と素材に惹かれ、来場者の多くが紙だと思って近づき、磁器だと知って驚くそうだ。

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デンマーク・コペンハーゲンで開催されるデザインイベント「3daysofdesign」では17世紀の天井高約5メートルの歴史的建築空間に展示、現地の業界関係者から好評で、多くの問い合わせがきたという。

2025年 Stockholm Furniture Fair (ストックホルム家具見本市) で、老舗高級家具ブランド Gärsnäs /ヤシネス社とコラボレーションした展示。手前のパステルカラーの椅子は、建築家・隈研吾氏がヤシネス社のためにデザインし発表した新作チェア、 ”HidaHida”  (撮影:机 宏典)
2025年 Stockholm Furniture Fair (ストックホルム家具見本市) で、老舗高級家具ブランド Gärsnäs /ヤシネス社とコラボレーションした展示。手前のパステルカラーの椅子は、建築家・隈研吾氏がヤシネス社のためにデザインし発表した新作チェア、 ”HidaHida” (撮影:机宏典)

現在はスウェーデンをはじめフィンランド、デンマーク、イギリス、オランダ、ドイツの6カ国で、レストラン、家具やデザイン小物を扱うセレクトショップや高級住宅や別荘への採用が進んでいる。いずれも実績のある建築事務所やインテリアデザイン事務所を通じたプロジェクトだ。

ヨーロッパでのローンチを仕掛けたJAPAN FORM(ジャパン・フォルム)とは

JAPAN FORMはスウェーデン・ストックホルムを拠点に、日本人デザイナー机 宏典とパートナーの机玲子がヨーロッパ市場に向けた日本のアートの紹介活動を行っている。机宏典は日本の大学でプロダクトデザインを学び、さらに家具やインテリアデザインを学ぶためにスウェーデン・ヨーテボリ大学大学院(HDK)に留学。以来30年以上スウェーデンでインテリアおよび家具デザイナーとしてデザインの現場に携わっている。北欧で培った視点と、日本ならではの美意識やクラフツマンシップを融合させ、日本の作り手による作品を、ヨーロッパの現代的な暮らしの中へ紹介している。

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パートナーの机玲子は東京で長年、外資系企業のPR・マーケティングに携わってきた。最近ではスウェーデンの陶芸家イングリッド・ウンショルド氏による1点もののカップやプレートを日本に紹介し、人気ベーカリー「Truffle BAKERY」のカフェ店舗で採用されている。

日本のデザインが注目されている理由

なぜ日本のデザインが北欧で注目されるのか━━それにはいくつかの理由があるという。

「ひとつめは美意識の共通性です。機能性を重視する点、過度な装飾を排し、素材そのものを大切にする姿勢でしょうか。こうした価値観は、自然との関係性を大切にし、心地よさを追求する北欧のインテリア文化とも親和性があり、日本の佇まいは好感をもって受け入れられています。近年では、建築・インテリアの世界で『Japandi』という言葉も定着し、日本の空間美学はヨーロッパの文脈の中でもひとつのスタイルとして認識されるようになりました」

※Japandi /ジャパンディとは
Japan + Scandinavia が合わさった言葉。7、8年前頃からヨーロッパで、西洋人が考える「日本的侘び寂び」と北欧ミニマリズムの融合を示すインテリアスタイルをさし、「高品質で洗練されたもの」というイメージが出来上がった。

「ふたつめは、ここ数年日本そのものへの関心が高まっていること。コロナ禍以降、SNSを通じて日本の食や建築、工芸に触れる機会が増え、その後、多くの観光客や、そして北欧のデザイナーや建築家、陶芸家などが日本を訪れています。そこで繊細な手仕事を体験し、空間に対する細やかな配慮に感動し、強い影響を受けているようです。

(撮影:机 宏典)
今年2/3-2/5のストックホルム市内で開催されたイベントで(撮影:机宏典)

最後に挙げておきたいのは、合理化が進んだ北欧・欧州社会との対比です。北欧では高賃金構造の現代社会の中で生産の効率化が進み、デザインと製造が分業されるケースも一般的になっています(たとえばデザインはスウェーデン、製造は南欧・アジアなど)。そんな中で、日本の職人技やデザインが持つディテールへのこだわりと高い技術力、素材に向き合う姿勢やマインドが、あらためて価値として見直されているのではないかと感じています」

JAPAN FORMはそんな日本の価値を丁寧に伝えることを意図し、ディスカウントを前提とするリセラーからのオファーは意を決して辞退してきた。目指しているのは単に「売る」ことではなく、飛松氏の、そして日本の文化的な価値を、正当な評価のもとで世界に紹介することだという。

「『飛松灯器』をはじめ、異文化の中で生まれたものには異なる視点や発見があり、それを届けることに意味があると考えています。陶芸に限らず、北欧あるいは日本でまだ広く知られていない優れた才能や文化があります。これからも、市場や暮らしの文脈を踏まえながら、そうした価値を翻訳し、適切な場所へ橋渡ししていきたいと思っています」

JAPAN FORMが重視しているのは単に「日本らしさ」や伝統性ではなく、それらが現地の空間やライフスタイルの中で価値として成立するかどうか。ヨーロッパの空間スケールや光の環境、生活動線といった要素を踏まえながら作家や製品を選ぶようにしている。

一方、北欧の作品を日本で展開することにはさらに高い壁がある。為替や物価差の影響のほか、スウェーデンは人件費や物価が高く、少量生産の作品はどうしても価格が上がってしまうのだ。それでも、「単にモノを紹介するのではなく、その背景やつくり手の思想まで含めて伝えたい」という想いがある。

文=久山葉子 編集=石井節子

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