ヘルスケア

2026.04.02 15:15

社会的評価の重要条件「脂肪」は人類の敵? 健康資源? 体につく量は個人の責任か

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肥満はオンラインデートだけでなく、就職にも不利という現実

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大人向け教育リアリティ番組『贅沢の罠』、『ベビーシッター救急』、『ビゲスト・ルーザー』【訳注:肥満の人たちがダイエットで競い合うリアリティ番組】では参加者がほぼ必ず低所得者層から選ばれている。

特にその価値観が明確になるのが肥満だ。太っていることはステータスが低い。問題視されるのは体重だけでなく、本人が体重に対処できていないこと、つまり自制心がないと思われてしまうのだ。中でも最悪なのが女性だ。この社会では男が選び女は選ばれるから、女性は自分の外見を既存の枠内に収める努力をする羽目になる。一方、男のほうはふくよかさを他の種類の権力、主に経済力などである程度補うことができる。社会学者のローランド・パウルセンが2010年にオンラインデートの経験者を対象に行った調査では、太りすぎの男性ですら太りすぎの女性を避ける傾向があるという。

〝肥満に関してはシニカルな反応ばかりだった━━他の要因にはそれは見られない。説明するのは難しいが、こと体重に関しては確固としたモラルが存在する。自ら選択した結果だとされるからだ〟

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採用に関するスウェーデンの研究でも、差別の法定根拠となる性別、セクシュアリティ、障害、年齢、民族、宗教といった要因よりも肥満で就職が困難になることがわかった。体重は性格テストそのものなのだ。太っている必要などないのになぜ太っているのか。体重を簡単に維持できるかどうかは個人差がある、そのことは何度も研究で証明されているにもかかわらずだ。過度に豊かな社会では体重が増える、それが人間の身体の仕組みなのに。

しかし肥満は本人のせいではない

2016年にはアメリカで減量リアリティ番組『ビゲスト・ルーザー』の2009年版に参加した人たちを追跡調査した結果が発表された。6年の間に14人中13人の体重が増えていて、しかも四人は撮影前よりも増加していたのだ。

この研究で最も注目されたのは参加者の代謝が低下したことだった。複数のケースで一日あたり一回分のちゃんとした食事に相当するだけの代謝が低下していた。同時に空腹を知らせるホルモンであるレプチンの生成が増えていた。以前太りすぎだった参加者たちはまた太らないよう体重を維持するために、身体が望むよりも少ない食事で生きることを強いられたのだ。どうやら身体には快適な体重というものがあるようだ。それより減らそうと手を尽くしても、内部から巧みな抵抗に遭う。

「太らないように体重を維持する難しさは生物学的なもので、アメリカ人の3人に2人が病的なまでに意志が弱いわけではない」医師で肥満専門家のマイケル・ローゼンバウムは『ニューヨーク・タイムズ』紙でそう述べている。

食と健康は切っても切り離せない。本書では食べないほうがいい脂肪も指摘されていくが、結局何を食べたほうがよくて、何を食べてはいけないのか━━それが一番知りたいところだ。本書にはその参考になる情報がふんだんにあるが、最終的にはスウェーデン農業大学分子科学研究所のヤーナ・ピコヴァ教授の「健康のためにはできり限り多様に食べる他ない」という言葉が心に残った。

『脂肪と人類━━渇望と嫌悪の歴史』 イェンヌ・ダムベリ著 、久山葉子訳、新潮社刊。
脂肪と人類━━渇望と嫌悪の歴史』 (イェンヌ・ダムベリ著 、久山葉子訳、新潮社刊)

文=久山葉子 編集=石井節子

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