ヘルスケア

2026.04.02 15:15

社会的評価の重要条件「脂肪」は人類の敵? 健康資源? 体につく量は個人の責任か

Adobe Stock

Adobe Stock

高校時代、交換留学でスウェーデンに学び、大学卒業後はスウェーデン大使館商務部勤務。その後、理想の子育てを求めて家族でスウェーデンに移住した久山葉子氏は、『スマホ脳』『多動脳』(ともにアンデシュ・ハンセン著、新潮社刊)をはじめ多くのベストセラー書籍の翻訳者として知られるほか、著書『スウェーデンの保育園に待機児童はいない』(東京創元社刊)』 のあるエッセイストでもある。

ここでは氏のスウェーデン語からの訳書のひとつ『脂肪と人類━━渇望と嫌悪の歴史』(イェンヌ・ダムベリ著 、新潮社刊)について、内容を引用しながら紹介していただいた。


脂肪は神話で重要な存在だった━━

脂肪━━その言葉を聞いて浮かぶのはネガティブなイメージばかりだ。身体についてほしくないし、なるべく食べないほうがいいと思ってしまう。しかし人類の歴史の大半、つまり近代になるまでは、脂肪は人間にとってこの上なく大切な存在だった。人間として進化し生き延びるためには必須だったし、神話や初期の宗教でも重要な存在として扱われた。今と昔でそこまで対照的なのが脂肪だ。

そこに魅せられたスウェーデンの食文化ジャーナリスト、イェンヌ・ダムベリが古今東西に関する文献を大量に読み込んで書いたのが『脂肪と人類━━渇望と嫌悪の歴史』だ。イギリスのホワイトチャペルの怪物から、20世紀のキリスト教的ダイエット、そして最新の調査や研究に基づいて「なぜポテトチップスや放牧ではない牛を食べてはいけないのか」を教えてくれる本だ。なんと「うま味」や「和牛」といった日本発祥の脂肪も本の中に登場する。

そういえば最近ではスウェーデンでも大都市に美味しいラーメン屋や寿司屋が増えたし、餃子や寿司も家庭料理として定着しつつある。

ヴィーガンにならなくても家畜愛護に貢献できる

訳者である私自身は本書を読んで以来、スーパーで売っているベーコンはもう食べたくないと思った。

スウェーデンでもかつては家庭で豚を飼い、年に一度屠畜して余すことなく食していた。一頭解体するにも何日もかかる大仕事だが、そうやってできあがるラードやソーセージは今でいうところの「完全自家製のオーガニック」で、さぞ美味しかったことだろう(子供の頃に読んだ『大草原の小さな家』でもローラが年に一度豚のしっぽをあぶって食べるのを楽しみにしていたのが印象に残っている)。

私も本物のベーコンを食べてみたい━━。探してみると、家から車で30分ほどの郊外に自分たちで豚や牛を育てている農場があった。まさに本書に出てくる〈ノルベーテ〉に参加する畜産農家のように動物の健康と環境に配慮した飼育をしていて、それゆえ肉の味も良い。家畜の飼育環境を憂いた場合、これまではヴィーガンになるより他なかったが、最近のスウェーデンではお肉をいただきつつも家畜愛護に貢献できる道が開けている。

わが家も定期的にその農場に通うようになり、ラードやヘット、くん液や酸化防止剤を使っていない本物のベーコン、穏やかに生きた豚や牛の各部位が常に冷凍庫にある。そんな美味しい肉を焼いて出た油は捨てずにとっておき、他の炒め物にも使っている。昔のスウェーデンの家庭のようにコンロの横に油脂を集める壺ならぬタッパーを常備しているのだ。

なぜタッパーかというと、蓋をしておかないと飼い猫がやってきてぺろぺろ舐めてしまうから。スーパーで買った肉の油は舐めにこないのに、本物の肉の美味しさは猫にもよくわかるらしい。

Adobe Stock
Adobe Stock

それでは人間の身体についた脂肪について世間はどう見ているのだろうか。その点について、本書では想像以上の厳しい現実が描かれている。

次ページ > 肥満はオンラインデートだけでなく、就職にも不利という現実

文=久山葉子 編集=石井節子

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事