公認会計士・税理士の活躍の場が日本の中堅・中小企業を救うM&A業界で広がっている。会計人材が拓く、新たなキャリアの神髄に迫る。
日本M&Aセンターが信条とする「品質こそが当社の根底となるバリュー(価値)」をその名に冠した「バリュー推進本部」。この組織の中核をなすのが、公認会計士・税理士によって構成されるコーポレートアドバイザー(CA)チームだ。
「私たちはM&Aコンサルタントに同行して案件進行を直接サポートする一方で、業務ツールの標準化や、膨大な案件から得られるナレッジの集約という、いわばインフラ整備の役割も担っています」と語るのは、取締役で公認会計士の熊谷秀幸(以下、熊谷)だ。
「初めてM&Aを経験される売り手のお客様は多くの不安をおもちです。その不安のために話が停滞してしまうこともある。その不安に対して、私たちの専門的な知識で正確な回答を即座に提示していくことで安心感をもっていただく。そして目の前の課題を一つひとつ解決しながら、話を前進させることこそが、私たちが提供すべき重要な価値です」(熊谷)
CAチームがカバーするのは、会計人として蓄積してきた専門分野にとどまらない。
「私たちの価値は一言で言えば『ナレッジの提供』。会計税務に限らず、成約に必要なあらゆるナレッジを集約し、それをコンサルタントが活用できるよう体系化する役割も担っています。高い専門性と現場感覚を併せもつ組織として日々研鑽を積んでいます」(熊谷)
この“仕組み”があるからCAチームは一人あたり200~300件もの案件をもちながらも少数精鋭化が可能になる。CAとして活躍する北川雅朗(以下、北川)はこう説明する。
「私たちのチームでは、メンバーが培った知見をデータベース化し、複数の会議を設けて“共有できるナレッジ”へと磨いています。一般的な会計事務所は優れた職人は多いものの、組織としてスケールしにくい課題があります。対して当社は、専門家ではないM&Aコンサルタントでもディールを推進できるよう、インフラ構築や勉強会を徹底してきました。当社が飛躍的な成長(ブリッツスケーリング)を実現できた根幹には、この標準化の成功が大きな役割を担っています」(北川)
熊谷も「当社代表の三宅卓には、ナレッジの標準化こそが中堅・中小M&A業界を発展させた要因であるという強い自負があります。専門家としてすべてをマニュアル化するのは難しいと感じる場面もありますが、そこを粘り強くかたちにしていくことで、弊社の今があるのです」と続ける。
監査や税務の枠を超え社会課題の「真の解決」へ
専門性を駆使して日本M&Aセンターのアイデンティティを支える彼らだが、以前は異なるフィールドで活躍してきた。“専門性をもって誰かの役に立ちたい”という思いで会計士の資格を取得した熊谷は、かつて監査業務に従事していたが、仕事の性質上「チェックする側とされる側」という関係性になりがちなことにジレンマを感じていたという。
「前職の監査法人時代に、相続税対策を提案していた際、多くのオーナーから『後継者がいない』という切実な声を耳にしました。この社会課題をなんとかできないかと考えていたときに日本M&Aセンターと出合い、“これこそが私が求めていた仕事だ”と確信しました」(熊谷)
税理士事務所に10年勤務してきた北浦絢也(以下、北浦)もまた、高齢オーナーの事業承継という課題に直面してきた。
「税務上の手法で自社株の承継は可能でも、親族に後継者がいない、従業員に任せるには不安があるといった、税務の枠組みだけでは解決できないケースが多々ありました。企業の存続と発展をより広い視点で支えられる手段を追求したいと思い、新たな活躍の場を求めました」(北浦)
北川が強調するのは、誰かの役に立っているという「仕事の手触り感」だ。
「大規模なM&Aに関与する場合、巨大なダム建設の一部分をつくるような感覚になりがちですが、当社の仕事は、一軒の注文住宅を最初から最後まで責任をもって建てるような手触り感があります。M&Aコンサルタントとともにお客様に直接対峙することが多く、信頼を作り出すことができる。そしてお客様から直接感謝の言葉をいただけることが、なによりもうれしく、ほかの仕事にはない魅力だと感じています。誰かの役に立っていると実感できる仕事です」(北川)
会計人材が「総合的な専門家」へと進化できる場所
人の役に立ちたいという誠実な思いは、「説明責任」と「結果責任」を果たそうとするプロフェッショナルな姿勢と業界全体の信頼性を高めるという気概にもつながる。
「中堅・中小M&Aはまだまだ歴史が浅い業界であり、課題も散見しています。当社ではここ数年、官公庁との連携を深めたり、大学を巻き込んで学会を設立したりと、産官学が一体となって業界の信頼性を高める努力を続けています」(熊谷)
北川にも自負がある。
「私たちは業界の模範となり、デファクトスタンダードを自らつくっていく姿勢で、業界全体を信頼感あるものに変えていく役割を担っていると思います。それがこの会社で働く醍醐味でもある」(北川)
M&A業界で会計人材が活躍できるフィールドは想像以上に大きい。一般的に会計の世界に生きる専門家たちが重視する倫理的要件は「中立性」だといわれている。そしてM&A仲介において最も重要視されるのも「中立性」だ。売り手と買い手のどちらかに偏ることなく、公平な立場で接する必要がある。これだけ社会的な意義があるにもかかわらず、会計・税務の専門家がこの業界に飛び込んでくる例はまだ多くはない。「監査法人からの転職ではコンサルやファンドが主な選択肢になりがちですが、志望者が少ない現状は業界全体の課題です」と熊谷は懸念する。
M&A業界にはPMIやIPO支援、ファンド業務など、会計士や税理士が思い描くキャリアの選択肢が多いことも見逃せない。日本M&Aセンターはこういった業務を担う企業をグループに多数もっている。
活躍する機会が多ければ、成長も早い。北浦もまた、自身の成長実感をこのように語る。
「現場に深く入り込むことで、ファイナンスの知識だけでなく、M&Aのプロの交渉能力などを間近で体験できます。これまで出会えなかったような人たちから多様な知見を吸収でき、非常に大きな刺激になる。ここでなら私が目指す『総合的な専門家』になれると感じています」(北浦)
日本の中堅・中小企業の未来に本気で向き合う誠実さ。それは税理士・会計士が本来もっている特性でもある。培ってきたスキルを生かし、キャリアの可能性を広げながら社会に貢献する。このフィールドは、志ある会計人材にとって、まさに「天職」となりうる場所なのかもしれない。
日本M&Aセンター
https://www.nihon-ma.co.jp/
くまがい・ひでゆき◎早稲田大学卒業後、監査法人での監査業務、大手証券会社における事業承継、IPO、M&A等に関する幅広いアドバイザリー業務経験を経て、2007年日本M&Aセンターに入社。取締役 常務執行役員。
きたがわ・まさお◎中央大学卒業後、大手監査法人、大手人材サービス企業勤務を経て、2018年に日本M&Aセンターに入社。海外案件、上場企業案件を含む多数のM&Aのエグゼキューション支援業務に従事。自社のクロスボーダーファンド組成にも関与。公認会計士。
きたうら・じゅんや◎大阪大学卒業後、税理士法人勤務を経て日本M&Aセンターに入社。組織再編案件、上場企業案件などさまざまなM&A支援業務に従事。業界誌の執筆も手がける。税理士。



