弁護士、司法書士の事業会社への転身が一般的となるなか、M&A業界という新たな選択肢に注目が集まっている。まだ法的にも未整備といわれる領域でルールづくりに貢献できる経験は、圧倒的なやりがいになるという。若き法律家たちの挑戦に迫る。
若手弁護士や司法書士のキャリアパスが、従来の士業事務所から事業会社の法務部門へと広がりを見せて久しい。しかし、そのなかでまだ浸透しきれていないのが、M&A業界における法務の需要と可能性だ。
日本M&Aセンター法務部に所属する一色翔太(以下、一色)は、ロースクールを卒業し司法試験に合格した後、あえて志したのがこの業界だった。
「法律は社会の枠組みをつくるものですが、その中身を実際に動かしているのはビジネスであるという感覚がありました。また、高校3年の冬に起きたライブドア社の買収騒動をテレビで見たことで、社会の仕組みの面白さに引かれたことも、法律を志し、M&Aという領域に関心をもつきっかけとなりました」(一色)
取り組むのであれば「M&Aのど真ん中」に身を置きたい。中小企業の事業承継という社会課題に向き合う同社の姿勢に共感した一色だが、司法書士事務所から転職した池田瑞季(以下、池田)もまた、同じ志を抱いていたひとりだ。
「前職では、事業承継の問題を抱えるお客様と接する機会が多く、その解決に貢献したいという強い問題意識がありました。定型的な業務だけでなく、より新しく挑戦的な仕事をしてみたいと考えた際、着目したのが日本M&Aセンターの圧倒的な取扱件数です。件数が多いということは、それだけ多くの社会貢献を具現化できると考えました」(池田)
コンサルタントと密に接し、質と知的水準を担保する専門部隊
ふたりが所属する法務部の主な仕事は、ディールの各段階における役務の質やコンサルタントの知的水準を担保し、適切なリスク管理を行うことだ。また、ディール法務だけではなく、会社全体の法務を担うコーポレート法務の機能もある。
「コンサルタントも多忙ななかで案件を進めています。ルールに縛られて『できない』と否定するばかりでは、話が前に進みません。そのため、ルールに則りつつも、いかにして解決策を見出すかを共に考える、柔軟な姿勢を大切にしています」(池田)
一方の一色は、法務部に配属される前に、自ら進んでコンサルタント職としての経験を求めた。
「現場での営業経験は、現在の法務の仕事に非常に役立っています。相談に来るコンサルタントが何に困っているのか、自身の経験から想像しやすいからです」(一色)
現在、同社の法務部には約10人が所属しており、弁護士、司法書士のほか、法科大学院卒業生など、極めて専門性の高い強力なチームを構成している。業界内を見渡してみても、これほどの人数で社内に専門部隊を備える企業は稀だ。同社執行役員で法務部長として彼らを束ねる横井伸(以下、横井)は、その意義を次のように説く。
「私たちのような法律の専門家が組織の内部に存在し、現場のコンサルタントと密に接していることで、M&Aの意義やルールの意図も現場に伝わり、浸透しやすくなる。取引の質を担保するうえで大きな意味をもちます」(横井)
こうした日本M&Aセンターの法務部の存在価値は今や社内にとどまらず、業界全体、さらには社会全体へと波及している。横井が入社した2010年当時と比べ、M&Aにおける法務のニーズが劇的に高まっており、 説明責任から結果責任を果たす時代になっているからだ。
「かつてのM&A業界はルールや規制がほとんどなく、ある種、自由に行われていた側面もありました。しかし20年ごろを境に業界を取り巻くさまざまな課題が表面化しました。行政がガイドラインを策定しましたが、極めて頻繁に新たなルールの改定が行われています」(横井)
実際、横井は現在、業界団体の取りまとめや官公庁との意見交換、さらにはアカデミアと連携しながら、新たなルールの策定に貢献するべく、奔走している。
「2024年1月にM&A業界の自主規制ルールが施行されました。その後も急ピッチで改定を重ねています。新しい業界のルール構築に携わることができるのは、弁護士として非常に貴重な機会です。それは日本M&Aセンターが成約数と歴史において業界のトップランナーだからこそ担える役目と自負しています。個人の利益だけでなく、社会全体の公共性に寄与しているという感覚は、ほかでは得がたい大きな魅力です」(横井)
日本M&Aセンターの法務部は業界のスタンダードルールを牽引する。一色もまた、このルールメイクにかかわる意義を強調する。
「M&A市場が日本にとって不可欠なものとなるなかで、制度構築の初期段階からかかわれるのは、法律家としてこのうえない幸運です」(一色)
視座の高い仕事に挑戦できる現在の職場で池田がつかんだのは、長年の夢だった執筆の機会だ。
「もともと書くことに強い興味がありました。大学院の法学研究科を修了していることもあり、上司である横井がその思いを汲み取ってくれ、『中小企業M&Aスタンダード法務/業界ルールの勘所』という本の執筆に携わりました。一冊の本をつくり上げる苦労もありましたが、業界全体の知識向上に貢献できることに深い感動を覚えました」(池田)
「アーティスト」のような自由な発想で、M&Aの未来を拓く
キャリアの可能性も、従来の士業事務所や一般企業とは一線を画す。横井は、メンバーに大きな裁量を与えるマネジメントを徹底している。
「士業事務所や一般的な企業法務では、自ら新たな挑戦をしようという発想が生まれにくい環境があるかもしれません。しかし我々は新しい業界だからこそ、自ら主体的に動き、クリエイティビティを発揮することが強く求められる。一人ひとりがアーティストのように自由な発想で仕事をしてほしいと考えています」(横井)
一色は「中小M&A市場はここ10年の爆発的な市場成長に伴い、法務に求められる役割もさらに広がっていくと確信しています。さらに専門性を磨いていきたい」とこれからのキャリアを語る。
池田も「当社は産学官の連携を重視し、学術的な研究も推奨される環境にあります。そうした分野での研鑽を積み、増えつつある海外案件にも視野を広げて挑戦したい」と使命感をもって挑む姿勢だ。
彼らの夢を支えているのは、業界トップの取扱件数という揺るぎない実績だ。
「取扱件数の多さは、専門家としての成長スピードに直結します。数多くの案件に触れることで、短期間で高い相場観を養うことができる」(横井)
多くの取扱件数による“密度”で得られる経験と、未踏のルールメイキングへの参画。業界をリードする立場だからこそ享受できるこれらの稀有な体験は、若き法律家たちにとって、魅力的なフィールドであるに違いない。
日本M&Aセンター
https://www.nihon-ma.co.jp/
よこい・しん◎1999年東京大学経済学部卒業。2007年弁護士登録。10年日本M&A センター入社。23年一橋大学大学院法学研究科ビジネスロー専攻博士課程修了。博士(経営法)。一橋大学大学院法学研究科ビジネスロー専攻客員教授/神戸大学大学院経営学研究科客員教授。
いっしき・しょうた◎早稲田大学大学院法務研究科修了。2014年司法試験合格。17年日本M&Aセンター入社。21年弁護士登録。同年より法務部配属。
いけだ・みずき◎2012年立命館大学大学院法学研究科修士課程修了。13年司法書士試験合格。司法書士事務所を経て21年、日本M&Aセンターに入社。同年より法務部配属。



