経営・戦略

2026.03.02 18:26

エージェンティックAI時代の到来──機械が取引を担い、人間は「おもてなし」に集中する

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ヴェレド・シュワルツは、短期賃貸向けのエンドツーエンドの物件管理ソフトウェアであるGuestyの社長兼COOである。

過去30年の旅行業界の進化を振り返れば、主要な技術シフトはすべて、ホストとゲストの間にある隔たりを埋めることに主眼が置かれてきた。1990年代には、インターネットが光沢のあるパンフレットをデジタルの到達範囲へと置き換えた。2000年代には、オンライン旅行代理店(OTA)が世界中の供給を集約し、アクセスを民主化した。そして2010年代には、スマートフォンが誰のポケットにも旅行代理店を入れ、親指のスワイプひとつで世界を予約できるようにした。

だが、私たちは本質的に異なるシフトに近づいていると考えている。データの要約やメール作成に技術を使う生成AI(GenAI)の時代から、私たちに代わって行動することを技術に権限委譲するエージェンティックAIの時代へ移行しつつあるのだ。

短期賃貸(STR)業界において、次の高価値ゲストは、あなたのヴィラの写真を眺めている人間ではないかもしれない。スクロールする時間のない誰かのために、複雑な指示を実行して滞在先を探し、予約を完了するAIエージェントである可能性がある。

一部の人にとって、「機械の買い手」は冷たく、取引的で、距離のある存在に聞こえるかもしれない。ホスピタリティが魂を失うのではないかという不安も呼び起こす。しかし私は、むしろその正反対だと考えている。

「事務」ホストの終焉

いま平均的な予約にどれほど多くの接点が含まれているか、考えてみてほしい。ゲストが物件を決めた後でさえ、本人確認、賃貸契約、デポジット処理、支払いスケジュールといった一連の事務手続きが待ち受けている。これらのステップはデジタル化したが、取り除いたわけではない。場合によっては、物件管理者がデジタルの書類係となり、チームがデータ入力に溺れ、結果としてサバイバルモードで業務をこなしている。

エージェンティック経済は、この摩擦を減らす、あるいは解消する可能性を持つ。AIエージェントが滞在を予約する際、ユーザーインターフェースは不要だ。APIを介して物件管理システムと直接やり取りできる。ミリ秒単位で、ゲストの本人確認、資金確認、契約署名、デポジット処理まで実行できる。私たちはこれを「見えないチェックアウト」と呼ぶ。

現時点でもホテル予約だけで、離脱率は81.7%前後に達する。旅行の購入は一般的な小売購入より高額であり、旅行の買い手の多くはより慎重かつ熟考的になりやすい。旅行の意思決定には、最良の条件を見つけるための調査が必要である。さらに「チェックアウト」を押す前に確認できる情報源のプールもはるかに大きい。Expediaの調査によれば、平均的な予約者は予約前にさまざまなサイトを38回訪問している。

エージェンティックAIシステムの導入は、企業の焦点を「人間の目のための体験設計」から「機械が交渉するためのインフラ構築」へと移しつつある。私は、離脱率の低下や、購入意向の強い旅行者の即時コンバージョンなど、ビジネスに与え得るいくつかの即時的な影響を見てきた。だが、本当の価値はその先にある。

「常識外れのホスピタリティ」を解き放つ

機械が取引を担うことで、企業は人間の従業員を「つながり」の対応により振り向けられるようになる。この業界ではしばしば「常識外れのホスピタリティ」という概念が語られる。期待を超えることこそが、忘れがたい記憶を生む唯一の方法だという考え方である。物件管理者が、事務という「常識的」な業務に忙殺されているとき、どうすれば「常識外れ」でいられるのか。

予約プロセスの事務負担をエージェンティックAIに委ねることで、物件オーナーは業務を整理し、時間を取り戻せる可能性がある。個別にカスタマイズしたウェルカムメモを書いたり、結婚記念日のサプライズギフトを手配したり、嵐の最中に電話をかけてゲストの安全を確認したりする時間を確保できる。

ここで「ヒューマン・プレミアム」が立ち上がってくる。IBMの元CEOであるジニー・ロメッティが「AIが人間を置き換えるのではない。AIを使う人が、使わない人を置き換えるのだ」と語った点に、私は同意する。2026年に繁栄するには、旅行・ホスピタリティ企業が、従業員が人間同士のつながりに集中できるようにする自動化を採用することが必要になるかもしれない。そうして初めて、どんなアルゴリズムにも再現できない形で、すべてのゲストが「見られ、聞かれ、価値づけられている」と感じられるようになる。

不安定な世界に組み込まれるレジリエンス

このシフトは、この業界で最も古い頭痛の種の1つである「変動性」を解決する可能性もある。短期賃貸市場は常に、季節変動、支払いの遅延、経済の変動に翻弄されてきた。

エージェンティックAIは、新たな水準の金融インテリジェンス、すなわち「埋め込み流動性」をもたらす可能性がある。私は、決済システムが取引をただ記録するのではなく、取引を予測する世界へ向かっていると考えている。閑散期にキャッシュフローのギャップが近づいていることをシステムが察知し、そのギャップを埋めるためにマイクロファイナンスや動的な支払い条件を自動的に提示する――そうした仕組みを想像してほしい。これは企業の財務機能を、事後の照合から先回りの戦略へと変革し、ビジネスモデルにレジリエンスの層を加えるだろう。さらに、ゲスト体験を損なうことなく、インフレやコスト上昇を乗り切ることをオペレーターに可能にする。

考慮すべき課題

業界を問わず、進歩とは盲目的な導入では決してなかった。常に求められてきたのは、慎重な評価、適切なインフラ、そして自動化が価値を生む領域と人間の判断がなお重要な領域の明確な理解である。エージェンティック・システムを全面的に受け入れる前に、デューデリジェンスが不可欠だ。

まず、エージェンティックAIは、それが依拠するデータと、正確性と一貫性を担保するために相互作用するシステムの質に左右される。また、エージェンティック・システムは提案を行うだけでなく行動するよう設計されているため、AIエージェントに何を許可するのか、明確なガードレールを設けることが重要である。とりわけ、財務的影響を伴う意思決定に関してはなおさらだ。そして例外処理を担い、収益に影響し得る誤りから組織を守るために、人間の監督は依然として不可欠である。

多くの組織にとって最大の障壁は、技術そのものではなく、それが求める組織的な変化になるだろう。私が成功裏の導入のために有効だと見てきた最善の戦略は、丁寧なオンボーディング、AI利用の明確な境界、そして自動化が人間の役割を置き換えるのではなく支えるのだという強固な社内ナラティブに依存している。

人間らしい未来

AIが人間味を脅かすという恐れは強まりつつある。だが私は逆を主張する。エージェンティック経済の台頭は、それを救う可能性を持つツールである。技術が冷徹なまでに効率を追求する一方で、ホスピタリティとSTRのリーダーに、温かく、個人的で、紛れもなく人間的な体験をゲストへ提供するための余白と支援を与える――そのようなシステムを私たちは構築できる。

forbes.com 原文

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