ただ、朝鮮中央通信が軍事パレードを伝える際に公開した写真のなかには、キム・ジュエ氏が中心に母親の李雪主氏や党幹部と一緒に座っている写真が含まれていた。最高指導者が出席する1号行事で、最高指導者抜きで特定の人物にフォーカスした写真は「偶像化」を意味し、北朝鮮では絶対的なタブーとされる。敢えて報道したところに、キム・ジュエ氏が金正恩氏の後継者だと幹部や一般市民の頭に刷り込みたい当局の意図がうかがえる。
軍事パレードには金与正氏も出席していたが、幹部たちのなかで小さく写っていたに過ぎなかった。自ら公開する写真を選ぶ権限がある宣伝扇動部副部長時代であれば、これは「権力簒奪の意思があると誤解されないように、慎重に行動した結果」だということになる。しかし、総務部長になり、報道への関与がなくなっていたとしたら、金与正氏が小さく写り込んだ写真は「意図的に、金与正氏の権力を小さくみせた」ということになる。そうであれば、金正恩氏が勢いを増している金与正氏の権力をけん制するため、閑職に回したとも言える。北朝鮮メディアが党部長の具体的な部署名を明らかにするのも異例だ。
しかし、一方でかつて金日成主席のフランス語通訳を務めた高英煥元韓国統一教育院長は「金正恩氏の言葉を代弁し、その耳や口となるために、あえて自由が利く総務部長に就任させた」と推測する。金与正氏は党宣伝扇動部にいながら、米国や韓国、日本などとの外交について自らの考えを示したり、金正恩氏の委任を受ける形で談話を発表したりしていた。これは宣伝扇動部の権限を越える行動で、「白頭血統だからなんでも許される」状況なのかもしれない。
金正恩氏は狙撃銃をプレゼントするにあたって「この贈り物は、祖国と人民に奉仕する皆さんの並々ならぬ労苦に対する評価であり、絶対的な信頼の表れである」と語ったという。高英煥氏は「銃を与えるくらい信頼しているんだから、忠誠に励めという意味だ」とも語る。
果たして金与正氏の権力が強まったのか、弱まったのか。与正氏の名前で今後も対外関係についての談話が発表されるかどうかで判断するしかないようだ。同時に、キム・ジュエ氏と金与正氏の間に一定の緊張があることは、ほぼ間違いないと言えそうだ。


