テクノロジー

2026.03.02 12:30

55%の消費者がAIとの対話に音声を利用、音声AIで最重要なのはコストではなく品質

yuanyuan yan / Getty Images

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BMW(ビーエムダブリュー)が車載AIアシスタントの「声」を必要としたとき、同社は合成音声のカタログを眺め、最もリアルなものを選ぶ──というやり方は取らなかった。

このプロジェクトに携わった企業向け音声マーケットプレイスVoices(ボイシーズ)の最高マーケティング責任者(CMO)、ルース・ザイヴによれば、BMWのチームはプロの声優を厳選した候補リストを作り、実際のスタジオで収録したうえで、最終的な声が実車の車内でどう聞こえるかを確かめた。走行音や雑音があり、気を散らす要素も多い高速道路の走行中にテストしたという。狙いは、人間らしく聞こえる声を見つけることではない。BMWというブランドを真に体現する声にすることだった。

このレベルの丁寧さは、今日でもなお例外的だ。ますます多くの消費者がAIとのやり取りに音声を好むようになっているにもかかわらず、大半の企業は、誰も聞きたがらないAI音声をそのまま出荷しているか、そもそもまだ何も導入していない。

55%の消費者がAIとの対話に音声を利用

マイクロソフトやShopify(ショッピファイ)などのブランドが利用する企業向け音声マーケットプレイスVoicesの新たなレポートが、この問題を数字で示した。調査会社Censuswide(センサスワイド)と共同で企業の意思決定者と消費者の計700人を対象に実施した最新レポート「Amplified 2026」によると、消費者の55%がすでにAIとの対話に音声を利用しており、65%がタイピングより速いと答えている。一方、顧客向けに音声AIを導入している企業はわずか29%にとどまる。26ポイントもの導入格差が存在し、これを放置した場合の代償はますます無視できなくなっている。

回答者の48%が、最重要の要素として声の調子と感情表現の豊かさを挙げる

このレポートで最も示唆に富むのは、格差そのものではなく、その両側で何が起きているかかもしれない。音声AIをすでに導入した企業にとって、中心課題はコストではなく品質である。回答者の48%が、音声AIの品質を左右する最重要の要素としてトーン(声の調子)と感情表現の豊かさを挙げた。企業の意思決定者の79%が、不自然なAI音声はブランドイメージを損なうと答えている。さらに41%が、導入に失敗した場合の最大リスクとして顧客の不満と離脱を挙げた。

「本物らしさ」の罠

ザイヴは、「不自然」の定義そのものが変わったと主張する。「AI音声は驚くほどリアルに聞こえても、どこか違和感が残ることがあります」と彼女は語った。「本物らしさとは、AI音声が十分に『本物っぽく』聞こえるかどうかではありません。重要なのはパフォーマンスの整合性です。つまり、その声が担っている役割にふさわしいか、その瞬間の文脈に合っているかということなのです」。

この区別は有用だ。フィットネスコーチとしては完璧に機能する声でも、請求をめぐるトラブル対応を任せれば、ひどく場違いに感じられかねない。話す速度、トーン、感情のレベルといった微細なシグナルこそが、信頼を築く声と信頼を損なう声を分ける。そしてデータが示すのは、大半の企業がまだそのことを理解しきれていないという現実である。

一方で市場全体の動きは速い。AI Voice Researchが500以上の組織を分析したところ、企業向け音声エージェントの導入数は前年比340%増を記録した。また、Grand View Researchのレポートによれば、会話型AI市場は2030年までに410億ドル(約6兆4000億円)規模に達する見通しだ。この技術はもはや実験段階にはない。だが、長年かけて築いてきた信頼を損なわずに導入できるのかという問いには、多くの企業がいまだ答えを出せずにいる。

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翻訳=酒匂寛

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