2026年、日本のスタートアップシーンは新たなフェーズに突入した。政府の「スタートアップ育成5か年計画」が折り返しを迎え、起業家の層を厚くする段階から、実際に社会へインパクトを与え、企業価値の大きなプレイヤーを創出するという、「縦」の成長を追求する段階へと移行したのだ。
では、今年のスタートアップ・エコシステムはどう変化していくのか。2026年版「日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング」で1位に輝き、4月16日に開催する「RISING STAR AWARD 2026」で審査員を務める、SBIインベストメント海外投資部長の仁位朋之氏に話を聞いた。
AI企業の選別が進む
──現在の世界のスタートアップ投資環境をどう分析していますか。
仁位:2021年までのバブル的な資金流入を経て、IPO件数や投資額は大幅に減少しましたが、一昨年から昨年にかけて回復傾向にあります。その最大の要因は、ChatGPTの登場以降に巻き起こっている「AI革命」の波です。
米国では多くのスタートアップがAI企業を標榜していますが、現在は「実際に顧客へ価値を提供できている企業」に一気に資金が集中し、バリュエーションが高騰しています。投資家によるAI企業の選別が始まっているということです。
地域別に見ても、イスラエルはガザ紛争下にありながらスタートアップ投資金額の回復が顕著で、M&Aでは年間の取引金額が過去最高を記録しました。欧州でもウクライナ戦争の長期化が尾を引いているものの、イギリスではAIスタートアップを中心に資金が供給されています。インドも冬の時代を脱して、再びユニコーン企業が増えるなど、グローバル全体で活気が戻ってきています。
──AIが投資の主戦場となるなかで、特に注目している領域はどこでしょうか。
仁位:汎用的な生成AIから、バーティカル(特定の業界や業務)領域で実務をこなして生産性を上げる「AIエージェント」への時代が確実に来ています。
例えば、当社の投資先である米国のGensparkは、AI検索エンジンからAIエージェント開発へピボットし、2025年4月に「Genspark Super Agent」をローンチ。わずか9カ月でARR(年次経常収益)1億ドルを超える驚異的な成長を遂げました。フィンテック領域でも、米国の金融機関がコールセンターによる債権回収をAIに代替させて完結させるなど、実用化が広がりを見せています。
また、英国のCleoは、Z世代向けにパーソナルファイナンスAIを展開しており、「6カ月後の海外旅行のための積立があるから、次のランチは支出を抑えて」といった具合に、個人の状況に合わせたきめ細かいアドバイスを提供し、急成長しています。
データの蓄積に伴う経験曲線効果によって、業務の自動化は今後さらに加速していきます。ホワイトカラーの業務がAIで劇的に効率化されるような未来は、もう遠い話ではないでしょう。
新型AIモデルが登場
──AI技術そのものの進化については、どう見ていますか。
仁位:AIモデルの変化も予感しています。現在の自然言語処理で主流の深層学習モデル「トランスフォーマー」は、情報量が増えると、膨大な電力や時間を消費してしまうため限界があると指摘され始めています。これに対して、人間の脳のように「一度忘れて、必要なときに思い出す」圧縮型のAIモデルを生み出そうという動きがあります。こうしたモデルが普及すれば、従来型と圧縮型を使い分けるアプローチが生まれて、AIはより複雑な問題にも対応できるようになるでしょう。
AIはまだ黎明期です。インターネット検索でヤフーからグーグルに主流が移行していったように、AIもこれからパラダイムシフトが起きると思っています。



