経営・戦略

2026.02.28 09:48

なぜ正論が通じないのか? 行動経済学で読み解くチームマネジメントの本質

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ほぼすべてのリーダーが、この瞬間を経験したことがあるはずだ。データと確かな論拠に裏打ちされた、完璧に論理的だと信じる戦略を提示したにもかかわらず、チームが抵抗する。計画は紙の上では筋が通っているのに、人は想定どおりに動かない。リーダーとしての年月のなかで私は、このズレは論理の失敗ではなく、多くの場合、人間の本質に対する誤解に起因するのだと学んできた。そしてそれは、私がより深く理解し、自らのリーダーシップに統合しようと取り組んでいる領域でもある。

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実際のところ、人は常に戦略や事実だけを基に意思決定するわけではない。意思決定は、バックグラウンドや経験をはじめ、感情や無意識のバイアスなど、さまざまな要因に左右されうる。こうした要因は、スプレッドシートや戦略フレームワークとはほとんど関係がないかもしれないが、目の前の議論やプロジェクトにとって価値がある。

だからこそ、成功するリーダーシップ、特に変革をマネジメントする局面では、行動経済学の理解が欠かせない。抽象的な理論としてではなく、人がなぜそのように振る舞うのかという根本に立ち返らせ、私たちの導き方を変革しうる実践的なツールキットとしてである。私は大学で初めて行動経済学を学び、以来ずっとそれを拠り所にしてきた。チームを一つにまとめ、良い成果を生み出すうえで役立つことを、私は何度も現場で実感している。

行動経済学とは何か

行動経済学は、人がどのように意思決定するかを研究する学問だ。企業が消費者に製品やサービスをマーケティングしたり販売したりする方法を検討する際によく活用される。しかしリーダーにとっては、これらの原則を理解することで、より良いプロセスを設計し、より効果的にコミュニケーションし、チームが目的ある変化を自然に受け入れる環境をつくる助けになる。

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これを理解しているリーダーは、単に人をマネジメントするのではない。人の行動に働きかけることで成功条件を設計するのだ。ここでは、私が価値を感じてきた行動経済学の4つの原則を取り上げ、リーダーがチームを前進させるうえで役立つと考えるポイントを探っていく。

損失回避

行動経済学でもっとも強力な原則の1つが損失回避である。これは、人が何かを失う痛みを、同等のものを得る喜びのおよそ2倍強く感じる傾向を指す。行動経済学の第一人者でノーベル賞受賞者でもあるダニエル・カーネマンの研究が示したとおり、私たちは利益を求める以上に損失を避けるようにできている。

業務の変更や新しい取り組みを導入する際、チームが何を得られるかよりも、何を失うかもしれないかに執着するのを私は何度も見てきた。慣れ親しんだプロセス、築き上げた人間関係、心地よいルーティン。

解決策は、損失回避を無視することではなく、それを織り込んで進めることだ。例えば、新しい顧客関係管理(CRM)システムを営業チームに提案する際に「顧客関係を改善する機会だ」と訴えるのではなく、まず「顧客関係の主導権は引き続き皆さんにある。そのうえで、顧客が当社全体とどのように関わっているかを、これまで以上に可視化できる」と強調することができる。

デフォルトバイアス

私がよく考える問いがある。チームに新しい行動を取り入れてほしいのなら、その行動は「簡単な選択」になっているだろうか。それとも「難しい選択」になっているだろうか。

デフォルトバイアスによれば、人はあらかじめ選択されているオプションに従う傾向がある。無料トライアル後もサブスクリプションを継続してしまったり、登録した覚えのないメールリストに入っていたりするのはこのためだ。アプリ、製品、プロセスにおけるデフォルト設定は、オプトアウトに余分な労力がかかるという理由だけで行動を形づくる。それがデフォルトの力である。

したがって、例えばCRMに新たな種類の情報を入力してもらいたいなら、人々が自発的にフィールドを追加してくれることに頼るべきではない。そのフィールドを必須にするべきだ。望ましい行動がデフォルトになれば、それは最小抵抗の道になる。

デフォルトは、熟慮を促すためにも活用できる。例えば、不要なデフォルトを意図的に取り除くことで、人は立ち止まって判断せざるを得なくなり、現状を受け身で受け入れることを避けられる。この「間」が集中を生み、最終的にはより良い結果につながりうる。

アンカリング

アンカリングとは、意思決定の際に最初に受け取った情報に過度に依存する傾向を指す」。最初の数字、アイデア、枠組みが、その後に続くすべての基準点になる。たとえそれが恣意的であったり、無関係であったりしてもだ。

私は、予算の議論、評価に関する対話、戦略策定のセッションで、アンカリングが作用する場面を見てきた。予算会議で最初に出た数字が著しく低いと、たとえそれが単なる暫定的な見積もりにすぎなくても、そのアンカーに照らして他のすべてが評価されてしまう。

有能なリーダーは、アンカリングを意図的に使う。プロジェクトのスケジュールを議論するとき、私は冒頭で現実的、あるいはやや保守的な見積もりをアンカーとして置くようになった。これにより期待値が適切に設定され、期待を上回る余地も生まれる。一方で、攻めたタイムラインから始めると、全員が非現実的な基準に縛られ、失望が約束される。過度に売り込むことは避けるべきだ。期待に届かない結果に終わる確率が高まるからである。

社会的証明理論

社会的証明とは、特に不確実な状況において、他者の行動を模倣する心理的傾向である」。この原理は、飲食店のレビューを確認する理由であり、推薦の声が機能する理由であり、「ベストセラー」というラベルが強力である理由でもある。

組織の文脈でも、社会的証明は同様に強い。新しい実践やマインドセットの浸透を促すなら、命令から始めてはいけない。代わりに、アーリーアダプターとその目に見える成功を強調することだ。新しいアプローチをまず試す意思のある、尊敬されるチームメンバーを見つけ、成功できるよう支援し、その成果を広く共有する。

これらの原則を理解することには価値がある。それを体系的に適用することは、変革そのものである。

今日の働く環境で優れたリーダーとは、必ずしも最高の技術力や最大のカリスマ性を持つ人物ではない。変化を動かせる人物である。私の経験では、伝統的なリーダーシップから行動経済学に裏打ちされたリーダーシップへの転換は、具体的なかたちで現れる。新施策の採用率が高まり、会議が生産的になり、プレッシャー下の意思決定が改善し、チームの結束が強まるのだ。

次の10年でもっとも成功する組織は、最高の戦略を持つだけではない。その戦略を、人がどのように考え、決め、行動するかという現実に沿って実装できるリーダーを擁している。これは単なる良いリーダーシップではない。人間の本質という現実に根ざしたリーダーシップである。そしてそれが、決定的な差を生む。

forbes.com 原文

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