東:AIで哲学を語るというと、「AIで人類は滅ぶ」「シンギュラリティがやってくる」とか「AGI(汎用人工知能)で神をつくり出す」というような大きい話が多いんですよね。でもそれも違う。そもそも「AIが神をつくり出してしまう! この世の終わりだ」と考えるのは、時間の経過を直線的に考える西洋の一神教ベースの考えであって、輪廻転生のあるらせん状の時間軸をもっているアジア人にはどうもピンとこない。文明観や世界観の話になるけれど。
今後応用科学において、人間にはさっぱり原理がわからないけれど、AIなら解明できて応用できてしまうような例は増えてくると思います。例えば新薬開発や核融合炉設計などはそうでしょう。しかしそれが人間社会にどれほどインパクトを与えるかというと、それほどでもないかもしれない。というのも、そもそも人間は長い文明のあいだ、「何で太陽が輝いているのかわからないけれど、毎日昇ってくるし暖かいし火もおこせる」とずっと「理解できないものに頼る」生活を営んできたわけですよね。AIも同じで、あるから使うというだけで人間社会自体はそれほど大きく変わらないのではないかと思っています。
桂:技術面で言えば、社会の生産性は恐ろしく上がっています。しかしパソコンもAIも同じで、みんなが導入すれば同じ条件での競争が維持されるだけで、実はあまり競争構造は変わらないんですよね。生成AIにしても、誰もがAIに仕事を頼むようになれば、そこに個性は働かないし、むしろ「交換可能な仕事しかしない」という宣言になりかねない。
僕は自分で企画書を書くのが好きなのですが、近い将来「まだ自分で書いてるんですか?」と言われるようになるかもしれない(笑)。そう考えると悲いんですけどね。AIに頼むだけである程度のものができてしまう。出てきたものを別のAIにチェックさせて、ブラッシュアップする。仕事としてはわからないではない。でもいきなりそっちに行くのではなくて、自分でつくるという感覚を養ってほしい。コンピューターはあくまで自分(人間)の能力を拡張するものなのだ、という感覚をもてるかどうか。その方向に行ってほしいという思いはありますね。
東:今の流れが続くと、AIがコンテンツをつくって評価して、再生回数を回して、人間はフィーを得る。つまりはAIだけがコンテンツをぐるぐる回して、人間にとっては預金額だけが増えていくという世界になりかねない。マルクス主義に「疎外」という言葉がありますが、まさに全面的疎外です。人間が介在しない状態でお金だけが生み出されていく。文明的におかしな方向に行きつつあるように思います。
人間の喜びとは何なのか。僕はテクノロジーを考える際には、この原点に立ち返るべきだと思っています。
東浩紀◎1971年、東京都生まれ。批評家・作家。ゲンロン創業者。ZEN大学教授。博士(学術)。著書に『存在論的、郵便的』(第21回サントリー学芸賞)、『動物化するポストモダン』、『クォンタム・ファミリーズ』(第23回三島由紀夫賞)、『一般意志2.0』、『弱いつながり』(紀伊國屋じんぶん大賞2015大賞)『観光客の哲学』(第71回毎日出版文化賞)、『ゲンロン戦記』、『訂正可能性の哲学』など。最新刊に『平和と愚かさ』。
桂大介◎1985年生まれ。早稲田大学在学中の2006年にリブセンスを共同創業し、2012年に史上最年少東証上場(当時)。その後は寄付に関心をもち、贈与コミュニティ「新しい贈与論」の運営を務める。19年にゲンロンと合同会社シラスを設立し、22年から共同代表に就任。


