生成AI(人工知能)に関する議論が中心的テーマな今だからこそ、テクノロジーの進化を哲学的・思想的視点から考える必要がある。
東浩紀(以下、東):ゲンロンでは2025年4月から「リベラルテック月報」という番組を始めました。動機のひとつとして、僕がかねてより、シリコンバレーのあるカリフォルニアがパリと並ぶ現代思想の源泉だと考えていることがあります。現在の僕たちの社会をかたちづくっているポリティカル・コレクトネス(政治的公平性)やDEI(多様性・公平性・包摂性)のような考え方の源泉は、パリの哲学が展開したヨーロッパ中心主義批判や男性中心主義批判にあります。人文系ではこちらばかりが注目されがちですが、他方でテック系の思想はカリフォルニアから生まれました。情報革命は、1970年代にガレージでコンピューターを自作するようなところから始まった、一種の思想運動でもあったと思います。その系譜をあらためて振り返りつつ、最先端のテック関係のニュースを、単なるビジネスや技術の問題としてではなく社会の変動を哲学的・思想的に考えるものとして紹介したい、というのが番組を始めた動機です。
桂大介(以下、桂):僕がプログラミングを始めたのは1998年、中学1年生の時でした。当時はプログラミングにしてもインターネットにしても、思想と近い場所にあった。ハッキングという言葉ひとつとっても、今のように「企業をどう喝して身代金を取るための道具」ではなく、権威への挑戦やプログラミング技術の探求心など、思想的・理論的なものと結びついていました。
僕よりも上の世代の人たちはインターネットの思想的な部分を口にしていたのですが、下の世代にはあまり伝わっていない。「誰かがやらなければ」と考えていたところ、僕にお鉢が回ってきた。話せる場所ができて良かったと思っています。
東:今、テクノロジーを解説する番組をつくると、「米中戦争のなかで日本はどう生き残るべきか」「AI(人工知能)に資本を集中させるべきだ」という話になりがちです。けれども、僕らは「そもそもコンピューターってどういうものだったっけ」から始めたい。
桂:「ビッグテックの動きが僕らの生活を大きく左右している」という側面は確かにありますが、生成AIモデルにおける(オープンAIの)ChatGPTと(グーグルの)Geminiの性能のどちらが勝っても、僕らの生活自体はあまり変わらない。では、実生活を左右するのは何なのか。そうした地に足の着いた議論をしていかないと、「実はあなたの思考はテクノロジーに操作されています」というようなあおる論調になってしまう。そっちには行きたくないという思いがあります。
番組の最後に「今月の一冊」というコーナーがあります。今は忘れられつつあるインターネットの思想的な部分をくみ上げてきた書籍、名著を紹介しているのですが、軒並み絶版になっていて、それ自体がITの思想的な言説が失われ始めていることのひとつの表れでもある。



