Forbes JAPAN 2026年3月発売号は「20 HOT CREATORS 進化するクリエイター経済」特集。日本の基幹産業として位置づけられるコンテンツ産業は、2033年までに海外売上20兆円規模を目指す成長領域だ。こうした状況下で存在感を高めているのが、IPを起点に新たな需要を生み出し、市場を広げていくクリエイターたちだ。本特集では、作品や世界観を核に市場を拡張していく、いま注目のクリエイター20人を紹介する。
そのひとりが京極だ。お笑いで築いた独自の世界観を生かし、アートへと表現の場を広げながら、自らをIPとして展開し、新たな表現や活動の場を広げている。
黒を基調とした衣装に、落ち着いた低音の声。そのクールないでたちから放たれる一言は、知的で、わずかな毒を含み、そして鋭い。大阪時代には「カリスマ」と呼ばれ、その独特の世界観から熱狂的な支持を寄せるファンも多い。京極風斗はお笑いコンビ・9番街レトロとして、現在は渋谷と神保町のよしもと漫才劇場に所属する看板芸人のひとりだ。京極の淡々としたボケを、相方のなかむらしゅんがツッコミとボケを織り交ぜて応える会話型の漫才で、身近な出来事の違和感をテンポ良く掘り下げるのがコンビの持ち味である。
京極の表現は、お笑いだけにとどまらない。コロナ禍で暇つぶしに始めたアクリル画は、その独特の世界観に惹かれる人が次第に増えていった。「お笑いはお客さんにウケるのが正解。でも、絵は作者の僕が『これで正解です』って言ったら正解になる。一方的で、その価値も受け手次第なのがいい」。
明確なテーマは設けず、その時に描きたいものを描く。初作品は、おかっぱの女性、平等院鳳凰堂、シャチの骨格といった、自身の「好きなもの」を脈絡なく描き、4時間で完成させた。
芸人という無形資産
そして、芸は身を助く。2025年頭に起きたオンラインカジノ騒動によって、相方のなかむらが活動自粛。約4カ月、京極はピンネタで舞台に立ち続け、さらに初の個展開催を発表。これまで描き溜めたアクリル画をオークション形式で販売すると、最高額は19万9589円で落札され、手元に残した初作品を除き、すべて完売した。
「なかむらからは(個展開催を)止められてたんですよ。お笑いじゃない部分で稼ぐのは、やらしいって。だから(自粛中で文句を言われないから)『ラッキー』やなって(笑)」
偶然を味方につけながら臨んだアートへの挑戦をこう振り返る。「芸人っていう土台があったから。どんだけうまい絵を描こうが、なんの肩書もない無名の人間だったら厳しいはず」。京極にとって「芸人」とは、最強の土台であり、あらゆる分野への「究極のショートカット」。
24年にはバッグブランド「nori enomoto」とのコラボ商品を発売。自身のアート作品を落とし込んだ3万5000円のバッグなどを販売し、出席したパリコレでは最前列でショーに参加。25年にはホラー映画で初主演も務めた。お笑いを軸に、アート、ファッション、映像へと自らの世界観を拡張し続ける。これまで築いてきたキャラクターや世界観といった、いわば「芸人」という無形の資産を、作品というかたちに変え、市場にまできちんと接続してみせた。
したたかに自己プロデュースをしつつも、大切にしているのは「直感」だ。「アートもお笑いも受け手が良いと思ったらそれでいい。熱いものを触ったら『熱っ!』って思うのと同じで、面白いと思ったから笑う。見ている人もそうであってほしい」。
個人がもつ経験や文脈をアセットに変え、自分自身をブランドとして拡張し、経済圏を立ち上げていく。京極は、その流れを体現するひとりである。
きょうごく・かざと◎1995年、大阪府生まれ。NSC大阪に入学、東京移籍後に9番街レトロを結成。ボケを担当し、ネタづくりも行う。コロナ禍でアクリル画の制作を始め、2024年にデザイナー榎本紀子とコラボ商品を発売。25年6月に初の個展「京極風斗の大原画展」を開催した。



