人民元の国際化を促進する、決済基盤としてのCIPSの役割
中国人民銀行が2015年に立ち上げた人民元クロスボーダー銀行間決済システム(CIPS)は、人民元の国際化を促進する中国の戦略的ツールの1つである。名目上はスウィフト(SWIFT)の銀行間メッセージング・ネットワークに代わるものとして機能する(ただし多くの場合、依然としてスウィフトに依存している)が、CIPSは、中国が構築し運営する決済基盤の上で、国境を越えた人民元の照合と決済を可能にする。貿易決済が他国に人民元で取引させるための重要な手段だとすれば、CIPSは、その人民元建て決済が流れるためのインフラと見なせる。
CIPSの立ち上げ後間もなく、スウィフトは「中国のクロスボーダー決済システムにより、コルレス銀行(中継銀行)が人民元建てクロスボーダー取引に参加する顧客に代わって決済指示を実行することが格段に容易になりました」と評価している。CIPSが国際決済メッセージ規格ISO 20022を採用したことで、クロスボーダーの接続性はさらに向上したとスウィフトは付け加えている
CIPSを通過した年間総取扱高は、約3860.8兆円に到達
2024年、CIPSを通過した年間総取扱高は43%増の175兆4900億元(約3860.8兆円)となり、取引件数も24%増の820万件に達した。2020年以降、取扱高と取引件数はいずれも3倍超に増えた。
2025年半ばまでに、CIPSの参加者は1683に達し、180の国・地域へと到達範囲を拡大した。最大の拠点はアジアで、参加の73%を占める。次に大きい地域は欧州であり、その後にアフリカ、北米、南米が続く。
貿易決済の拡大に加え、デジタル人民元が中国通貨の国際利用を押し上げ
貿易決済の拡大とCIPSという決済基盤のほか、デジタル人民元も中国通貨の国際利用を押し上げている。中国主導の中央銀行デジタル通貨(CBDC)による越境決済システムの開発を目指し、かつて国際決済銀行(BIS:Bank for International Settlements)の支援を受けていたmBridge(mBridge/エムブリッジ)プロジェクトが始動してから5年が経ち、同システムでの取引は約550億ドル(約8.6兆円)に達した。デジタル人民元が取引の約95%を占める。
中国とアラブ首長国連邦(UAE)の商業銀行が協力し、初の越境CBDC取引を実施
注目すべきことに、2025年後半、中国とアラブ首長国連邦(UAE)は、初の越境CBDC取引を実施したと発表した。中国とUAEの商業銀行と協力して開発されたこのプラットフォームは、低コストで即時の取引を提供する狙いがある。まずはUAE—中国の回廊(決済ルート)に焦点を当て、その後、2026年に他のmBridge参加メンバーへ拡大する予定である。
mBridgeが有用な決済回廊となる一方で、国際決済銀行(BIS)がプロジェクトから撤退
筆者らは、mBridgeが参加者にとって有用な決済回廊となり得る(主にホールセール取引に焦点を当てる)一方で、その潜在力が大規模に広がる余地は限られたままだとみる。一方では、2020年代初頭のCBDC熱は冷め、多くの国にとってデジタル法定通貨の開発がもたらす便益は限られている。
他方、2024年末にBISがプロジェクトから撤退して以降、mBridgeの状況は変わった。公式にはBISはmBridgeが実用最小限の段階に達したために撤退した──つまり、参加する中央銀行(中国本土、香港、タイ、UAE、サウジアラビア)が自力でプロジェクトを運営できるようになったからだとされている。確かにそれは事実だが、BISには現行のドルベースのコルレスバンキング体制(中継銀行を通じた国際送金の仕組み)に代わるものを公式に支持していると見られることを避けたいという思惑もあったのではないかと筆者は推測する。


