マネー

2026.03.02 12:00

ブラジル・ロシアとの決済増加、人民元シェア30%へ──国際貿易の勢力図は変わるか

Shutterstock

Shutterstock

国際貿易と金融システムは、長らく米ドルと送金網「SWIFT」の圧倒的支配下にある。米国にとって、この「ドル覇権」は安全保障上の強力な武器だ。制裁対象国を国際金融から排除する「金融核兵器」としても機能するため、これに対抗する中国は、制裁リスクの回避と地政学的野心から独自の決済圏構築を急いでいる。

事実として、中国の貿易決済における人民元シェアは30%に達した。特にロシアとの貿易では、その9割がドルを介さない人民元やルーブルなどの当事国通貨で占められるまでになっている。中国独自の送金網「CIPS」やデジタル人民元の活用も着実に拡大し、既存の秩序を揺るがすと見る向きもある。

しかし、中国が金融システムへの「統制」を優先し続ける限り、人民元が真の基軸通貨になるには制度的な限界が伴う。本稿は、拡大を続ける人民元利用の実態に加え、国際化を阻む「資本統制」の壁、さらにはデジタル人民元に影響しかねないドル連動型ステーブルコインの台頭といった新たな局面を考察する。

中国が金融強国を目指す一方で、人民元は根本的な制約を抱える

2月上旬、中国の重要な政治理論誌『求是(Qiushi/チウシ)』が、中国の習近平国家主席の発言を掲載し、人民元を世界の準備通貨にするよう呼びかけた。中国が国際金融システムでより大きな役割を果たそうとする野心を強めていることを示す動きである。習主席の発言自体は最近のものではなく、2024年のものだが、北京が自国通貨の世界的利用を拡大する新たな好機を見いだしている局面で、あらためて公表された。

習主席はこう述べた。「金融強国とは何か。第1に、国際貿易、投資、外国為替市場で広く使われ、世界の準備通貨としての地位を持つ強い通貨を持つことです」。

最高指導部は金融改革を準備するものの、人民元の流動性とアクセスのしやすさには制約が存在

ANZグループ(オーストラリアの4大銀行の1つで、世界約30の国と地域で展開する大手金融機関)の中国担当シニアストラテジスト、シン・ジャオポンはブルームバーグにこう語った。「さまざまな情報源によれば、最高指導部はより多くの金融改革を実行に移す準備をしています。金融機関の間でドルの下落について強いコンセンサスがあるため、政策当局は今が好機だと見ているのかもしれません」。

保護主義的でしばしば予測不能な米国の通商政策は、世界の基軸通貨としてのドルの優位性に疑問を投げかけている。しかし、人民元にはその役割を担ううえで根本的な制約がある。人民元は投資目的で自由に交換できる通貨ではないため、各国の中央銀行が求める流動性とアクセスのしやすさを欠いているのだ。中央銀行は米ドル、ユーロ、日本円、英ポンドのように、安全で自由に取引できる資産を好む。

ただし人民元は、国境を越えた貿易決済での利用が増えている。デジタル人民元(e-CNY)と、中国の決済基盤である人民元クロスボーダー銀行間決済システム(CIPS:Cross-Border Interbank Payment System)によって、この動きはさらに加速する可能性がある。

ロシアやブラジルとの二国間貿易において、人民元による決済が急増

現在、中国の貿易の約30%が人民元で決済されており、2017年のわずか10%から大幅に上昇した。この変化の主な要因は、中国とロシアが2450億ドル(約38.2兆円。1ドル=156円換算)にのぼる二国間貿易の90%以上を自国通貨で決済するようになったことにある。変化は急速だった。2022年以前、ロシアにおける人民元の使用はほぼゼロだったが、ロシアのウクライナ侵攻とその後の戦争を受けて急増した。

ロシア以外では、ブラジルもここ数年で人民元建ての貿易決済を大きく増やした代表的な国である。中国とブラジルは2023年初頭に、ブラジル国内に設置した人民元クリアリングバンク(決済銀行)の支援のもと、自国通貨建て決済の枠組みを構築した。両国の中央銀行間で締結された1900億元(約4.2兆円。1元=22円換算)規模の通貨スワップ協定が、取引の流動性と安定性を支えている。大豆、鉄鉱石、石油といったブラジルの対中主要輸出品の代金は、人民元とレアルで決済されるケースが増えている。2025年初頭までに、両国間貿易の41%が人民元で決済されるに至った。

人民元による決済の場合米ドルを介する必要がなくなり、コスト削減につながる

人民元で決済すれば、仲介通貨として米ドルを介する必要がなくなり、外国為替(FX)コストを下げられる。中国から輸入する企業にとって、人民元の利用は大幅なコスト削減につながり得る。中国の供給業者が通常ドル建て請求書に上乗せするヘッジ費用が不要となるため、請求額で最大3%の節約になると推計されている。

貿易決済に中国通貨を使うことは、戦略面・運用面の利点ももたらし得る。中国の供給業者が望む通貨に合わせることは取引関係を強化し、交渉での立場を強める可能性がある。さらに、人民元で取引すると、パンダ債、人民元建て融資、信用状(L/C)など、中国の貿易金融商品へのアクセスが開ける。これらは、ドル建ての代替手段より資金調達コストが低い場合がある。

次ページ > 人民元クロスボーダー銀行間決済システム(CIPS)の役割

翻訳=酒匂寛

タグ:

連載

Updates:ウクライナ情勢

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事