あるマネジャーが、ある活動へのボランティア参加を常に推奨しているにもかかわらず、あなたやほかの従業員が休暇を取りづらい状況をつくっているとしよう。その行動の不一致を目の当たりにすれば、時間の経過とともに、職場へのつながりが薄れ、憤りさえ感じるようになるだろう。
寄付やボランティアといった「社外」に向けた寛大さの実践には、リーダーにとってさまざまな利点がある。以前に書いたように、「強力な企業の寛大さの取り組みを構築することで、ビジネスリーダーは社会課題の前進に寄与し、消費者によるブランド認識を向上させられる。また、リーダー自身と従業員の心理的ウェルビーイングも高められる」のである。
しかし、非営利であれ営利であれ、リーダーは「社外」だけでなく「社内」(つまり自組織)でも寛大さを実践すべきだ。寛大さは一度きりの振る舞いや性格特性ではなく、リーダーシップの構造要素として捉えることが重要である。寛大さは、功績の分かち合い方、ミスの解釈、資源配分、やり切る姿勢の示し方、従業員への接し方など、組織のさまざまな要素を形づくる。
リーダーが社内で寛大さを実践する重要性
寛大さは職場において大きな力を発揮する。
例えば、2023年に公表された研究では、「向社会的でないCEOがいる企業と比べ、向社会的なCEOがいる企業は、経営幹部の部下の離職率が低く、より従業員に優しい施策を実施し、顧客満足度が高く、より社会的責任のある活動に従事する」ことが示された。さらに、2010年に公表された研究では、「経営への信頼、心理的支援、経営が重視し報いる価値観」が、従業員が自組織をどう捉えるかに影響し、その認識が、正式な職務範囲を超えた行動の水準の高さと結びついていることが明らかになった。
筆者は、職場における寛大さが心理的安全性を高めうることを目にしてきた。具体的には、リーダーが日常的に寛大さを実践すると、メンバーに次のメッセージを伝えられる。すなわち、組織における価値は、完璧さを条件にはしない、ということだ。職場で心理的安全性を育むことは不可欠である。2024年に公表された研究論文でも、「従業員がエンパワーされるには、安全であると感じる必要がある」ことが示されている。
なぜ寛大さの実践を優先しない組織があるのか
社内で寛大さを実践する重要性を踏まえると、なぜ一部の組織では後回しにされるのか。筆者の見立てでは、いくつかの要因が考えられる。
1つには、目標達成と成果創出への圧力が、リーダーを結果へと過度に集中させ、その過程で文化(そして生産的で前向きな文化づくりを助ける寛大さ)を後景に追いやってしまうことがある。ある研究論文が指摘するように、「ストレス下では、変革型リーダーシップのような肯定的なリーダー行動が低下し、虐待的リーダーシップのような否定的行動のリスクが高まる可能性がある」。
また、一部の組織では、欠乏がさらに圧力を上乗せする。特に非営利の世界では、時間、資金、注意といった資源が不足しがちで、圧力が増幅されるのを筆者は見てきた。欠乏は、リーダーをより防衛的にし、資源の保全に意識を向けさせることがある。この概念は、センディル・ムッライナタンとエルダー・シャフィールの著書『いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学』で論じられている。著者の1人であるシャフィールは、米国心理学会とのインタビューで、「欠乏への対処に注ぐものが増えるほど、人生のほかのことに回せるものが減っていく」と説明している。
さらに筆者が観察してきたのは、寛大さを「甘い」「許容的」だと誤解するリーダーがいることだ。寛大さを示せば従業員につけ込まれるのではないかと懸念する。その恐れは理解できる。だが答えは、寛大さを方程式から取り除くことではない。必要なのは、よりよく設計された寛大さである。寛大さは許容主義と同じではない。寛大さには構造が必要だ。リーダーは境界線を伴う寛大さを実践すべきである。
寛大さの文化を築くためのベストプラクティス
リーダーが意図的に寛大さの文化を育む方法はいくつもある。
まず、先に述べたとおり、リーダーは寛大さを許容主義と同一視すべきではない。寛大であることが裏目に出るのではと恐れるリーダーは、発想を転換し、構造と一貫性を伴って実践される寛大さがチームを強くしうることを認識すべきだ。
また筆者の考えでは、リーダーは一歩引いて、状況にニュアンスと共感をもって向き合うべきである。適切な場合には、いくつかのルールを緩めることも検討できる。例えば、ある組織が従業員に対して15日のPTOしか提供していないとする。海外旅行のためにPTOを貯めていた従業員が、突然インフルエンザにかかってしまった。マネジャーは、その従業員に病欠としてPTOの使用を求める(その結果、将来の旅行を短縮せざるを得なくなる)代わりに、その期間についてPTO申請なしで欠勤できるようにしてもよい。
リーダーは、感謝を実践することも習慣化すべきである。従業員が行っている仕事に対し、承認と謝意を示すのだ。アダム・M・グラントとフランチェスカ・ジーノ(筆者の元教授)による研究は、「感謝の表現は、個人が社会的に価値づけられていると感じられるようにすることで、向社会的行動を増やす」ことを明らかにしている。2人が行ったフィールド実験では、「マネジャーの感謝の表現は、大学の募金担当者が行った電話の本数を増加させ、その効果は自己効力感ではなく、社会的価値(social worth)によって媒介された」ことが示された。
さらに、成功と失敗の双方から得た学びを、組織全体で話し合うことも重要である。勝因や敗因、うまくできた点、改善できる点、今後に向けた示唆などをオープンに語り、掘り下げることは、従業員がリスクを取ったり発言したりすることへの心理的負担を軽減しうる。こうした対話は、組織のリーダーが情報、功績、学習を寛大に共有しているという感覚を生む。
また筆者は、問題が起きた際に(組織内の問題であれ、チームメンバーに影響を与える自然災害のような外部要因であれ)リーダーがやり切る姿勢を示すことを勧めたい。変動の時期における強いリーダーシップは、従業員が「見てもらえている」「話を聞いてもらえている」と感じる助けになる。
最後に、リーダーは資源配分(昇給のための予算や、専門性開発の機会など)について戦略的に意思決定し、その決定をチームに対して透明性をもって説明すべきだ。その透明性は、なぜ特定の判断がなされたのかというロジックの理解を助ける。
寛大さの力
筆者は、寛大さを最も強力なリーダーシップツールの1つだと見ている。ことわざにもあるように、「言葉より行動」である。
人は寛大さを受け取る側に立ったときにこそ、安全で、見てもらえていて、重要な存在だと感じられる。そしてその結果、ベストな仕事をするための力を得るのである。



