ヘッジファンド業界出身のベッセントは、トランプの側近のなかでも、円の急激な変動は投資戦略を台無しにしかねないという点をとくに熟知したひとりだ。円の先行きは他方で、高市が日本の歴代首相の多くのように在任期間1年程度で終わるのか、それとも師である故・安倍晋三元首相のように長期政権を築くことになるのかも左右する可能性がある。
2012年に首相に返り咲き、2020年まで務めた安倍と同様に、高市は再び景気刺激策の蛇口を開こうとしている。まず、すでに債券市場を揺るがしている21兆円規模の歳出パッケージ。次に、日本の政府債務のGDP比を260%超へと一段と押し上げることが確実な減税。さらに、日本銀行による利上げも阻止する構えだ。
これらはすべて円安方向にはたらくのは間違いない。現在は高市が率いる自由民主党の政権がこの20年以上にわたり望んできたのも、その方向性だった。しかし、これまでと同じ陳腐な処方箋に固執するのは、力強く独創的な指導者というイメージを打ち出そうとしている高市の努力にそぐわない。それは、入念につくり上げてきた「鉄の女」という自己像ともかみ合わない。高市は、憧れの政治家は英国のマーガレット・サッチャー元首相だと公言している。
元英誌エコノミスト編集長でジャーナリストのビル・エモットはある論説で「高市にとって外交面の当面の試金石は、ワシントンでのもてなしや、今年出席するさまざまな国際サミット(首脳会議)での受け止められ方になる」と述べ、こう続けている。「しかし、より根本的な試金石は円相場だろう」
言うまでもなく、通貨の価値はどの政府も直接コントロールできるものではない。「だが」とエモットは書く。「1年か2年後、日本円がいまと同じように外国為替市場で著しく過小評価されたままだとすれば、それは、2月8日の選挙で勝利を収めたにもかかわらず、日本の『鉄の女』がひどく錆びついていることを明確に示すものになる」
そうなればトランプワールドの怒りを買うのも避けられそうにない。ベッセントのすでに非常に長い「課題リスト」にも、新たな課題が追加されることになるだろう。


