経営・戦略

2026.02.26 17:52

欧州企業がデジタル化で見落としている決定的な盲点──決済のロジック

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by Joachim Wuermeling, Institute for Deep Tech Innovation(DEEP), ESMT Berlin

欧州の経営幹部がデジタルトランスフォーメーションについて語るとき、話題はクラウド移行、人工知能、サイバーセキュリティに及ぶ。サプライチェーンを再設計し、ERPシステムを刷新し、工場にセンサーを組み込む。しかし、業務の中で最もアナログな要素の1つが、いまだほとんど手つかずのまま残っている。決済のロジックである。

取締役会や経営陣にとって、この盲点は戦略上の負債になりつつある。リーダーが10年以上にわたって決済アーキテクチャを固定化しかねないインフラ投資を承認している一方で、それが経営アジェンダに上がることはめったにない。

ドイツ連邦銀行の理事として私は、決済の遅延や流動性バッファーが、安定期にはほとんど意識されないにもかかわらず、環境が引き締まる局面でリスクを増幅し得ることを目の当たりにした。定型的なバックオフィス処理に見えるものは、実際には競争力とレジリエンスを左右する構造的要因である。いま、貨幣そのものがデジタル化し、自動決済が可能になりつつあるなかで、その構造は変わり始めている。

デジタルユーロをめぐる議論は、しばしば金融政策やプライバシーの問題として語られる。だが企業リーダーにとって、それはより切迫したテーマだ。今後10年の生産性、流動性管理、そして戦略的自律性を形づくる運用上の意思決定なのである。

決済はいまなおインフラとして扱われている

現在の「デジタル決済」の大半は、本質的には口座間の指示にすぎない。越境取引では、コストは取引額のおよそ2〜7%に及ぶ。決済には数時間から数日を要し、商品がすでに移動しているのに運転資本は拘束されたままだ。

この摩擦はあまりに常態化しているため、測定すらされないことが多い。だが複雑なサプライネットワーク全体では、その影響が積み上がり、資本効率を静かに損なっていく。

決済摩擦はどこに潜むのか

欧州産業の基幹の1つである自動車セクターを例に取ろう。ティア1の自動車部品サプライヤーが、メーカーに部品を納入する。センサーが到着を確認し、品質システムが適合を検証し、生産ラインが部品を組み込む。

しかし決済は別の経路をたどる。請求書の発行、社内チェック、承認の連鎖、そして最終的な決済である。実績が検証されてから最終的な対価の受け取りまでに、数日を要することもある。

決済が自動化され、デジタルインフラに直接組み込まれるなら、納入と適合の確認が自動的に決済をトリガーできる。実績と支払いは同時に発生する。補償が検証済みの納入から切り離されなくなるため、決済リスクは低下する。事務的なレイヤーは縮小し、流動性はバリューチェーン全体をより速く循環する。

これはもはや机上の空論ではない。欧州中央銀行はすでに、新たなデジタルインフラを用いて数億ユーロ規模のホールセール取引を処理している。決済ロジックは、かつてのように技術によって制約されてはいない。

取締役会がいま下しているアーキテクチャ上の意思決定

欧州各地の大企業は、レガシーERP環境を置き換え、エンドツーエンドのデジタル化に投資している。2026年に導入されるERPプラットフォームは、2036年になってもワークフローを規定している可能性が高い。

設計段階で、自動化された条件ベースの決済を考慮しなければ、企業は「昨日の決済ロジック」を「明日のデジタルプロセス」にハードワイヤリングしてしまうリスクがある。

それは技術的な見落としではない。長期的なコスト含意を伴う戦略的選択である。

決済はいまも外部に置かれ、他が自動化されたプロセスの中で、手作業の後付けとして残っている。デジタル決済インフラが成熟するにつれ、この分離はますます不自然に映るだろう。

今日導入されるシステムは、自動決済が可能なデジタル中央銀行マネーと互換性を持つか、持たないかのいずれかである。

競争力と戦略的自律性

世界的な状況は、この緊急性をさらに際立たせる。米国は規制枠組みのもとで民間セクターのステーブルコイン構想を支援する道を選んだ。中国は自国の中央銀行デジタル通貨を、戦略的な明確さをもって推進してきた。欧州はバランスの取れた針路を進んでいる。ステーブルコインを規制しつつ、デジタルユーロの導入準備を進めているのだ。欧州中央銀行はすでにインフラ開発の新たな段階に移行しており、ホールセール用途が、10年後半に想定され得るリテール向けの立ち上げに先行して進展している。

企業リーダーにとって、正確な政治日程は方向性ほど重要ではない。デジタル決済インフラが立ち上がりつつある。グローバルに事業を展開する企業にとっては、断片化した環境を航行することを意味する。市場ごとに異なるデジタル決済レールが支持され、それぞれ異なる規制要件とデータガバナンス基準を伴うからだ。

欧州の決済フローは、欧州連合の域外に本拠を置くインフラに大きく依存している。地政学的緊張の局面では、こうした依存関係が脆弱性になり得る。金融インフラは、エネルギー網や半導体のサプライチェーンと同様、戦略的自律性の一部である。

金融ストレスの局面では、流動性の摩擦が非常に速く可視化される。決済システムの設計は、取引スピードだけでなく、システム全体のレジリエンスにも影響する。

取締役会で問うべきこと

CEOとCFOは、実務的な問いから始めるべきである。

  1. トークン化された形態の中央銀行マネーが利用可能になった場合、当社の基幹システムはそれと相互運用できるか。
  2. 決済遅延がどこで運転資本需要を膨らませ、あるいは回避可能な紛争を生んでいるか。
  3. バリューチェーンのどの部分が、「実績と支払いの同時化」から恩恵を受けるか。
  4. 決済が即時になるなら、従量課金や自動化されたマイクロ補償といった新たな価格モデルは商業的に成り立つか。
  5. 決済が自動化へ向かう世界で、当社は貨幣を静的なインフラとして扱っていないか。

システム設計としての「お金」

サプライチェーンのデジタル化は、単に物流を加速しただけではない。まったく新しい流通モデルと事業戦略を可能にした。貨幣のデジタル化も、同様の道筋をたどるかもしれない。その変革力は現金を置き換えることではなく、決済を自動化されたプロセスに組み込み、摩擦をスケールで削減する点にある。

欧州の競争力は、しばしば外部からの圧力の問題として論じられる。対照的に、取引の非効率は、リーダーシップが直接影響を及ぼせる内部変数である。多くの企業にとって、越境決済コストは国際展開がそもそも成り立つかどうかを左右し得る。この変数が再設計されるかどうかは、経営陣がそれを戦略的インフラとして捉えるのか、それともバックオフィスの配管のようなものとして扱うのかにかかっている。

デジタルユーロは、最終的には公的な意思決定である。だが自動決済に備えることは、そうではない。その責任は取締役会にある。早期に取り組む欧州の経営者は、立ち上がってくる標準やアーキテクチャの形成に寄与するだろう。先送りする者は、別の場所で定義された枠組みに適応する立場に追い込まれるかもしれない。

forbes.com 原文

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