サイエンス

2026.03.03 18:00

数を数え、ゼロを理解する鳥「ヨウム」が人間に教えてくれること

西アフリカ原産の大型インコ「ヨウム」(Shutterstock.com)

西アフリカ原産の大型インコ「ヨウム」(Shutterstock.com)

西アフリカ原産の大型インコであるヨウム(英名African gray parrotm)が「3」と言っているように聞こえる声を発したとしても、覚えた音を文字通り「オウム返し」しているだけだと思う人が大半だろう。しかしヨウムの場合は、本当に数という概念を理解し、判断している可能性がある。つまり、数量を特定し、それを「3」という発音でラベリングし、質問に対する反応として、このラベルを適切に用いる、という一連の判断ができているということだ。

認知能力を研究する生物学者にとって、ヨウムが持つこの能力は、数に関する思考の進化過程や、数を数えることが可能な脳の在り方に関して、多くの仮説の見直しを迫るものだった。

オウム目インコ科のヨウム(学名:Psittacus erithacus)は、声色を真似る能力の高さでもともと有名だが、科学者のあいだで評判となっているのは、この鳥が持つ、数を操るという驚くべきスキルだ。これは、ヒトのほか、研究が進んでいる一部の哺乳類を除くと、まれにしか認められない能力だ。しかしどういうわけか、クルミほどの大きさの脳しか持たない鳥であるヨウムに、こうした能力が出現している。一体どういうことなのか、生物学の研究成果から紐解いていこう。

数の数え方を鳥に教える実験

動物が「数を数える」ことがあるという説は、20世紀の大半を通じて、根拠のない思い込みとして退けられていた。動物が「大と小」を区別できることは認めつつも、真の意味での数という概念を理解する能力には欠けているという意見が、研究者のあいだでは大勢を占めていた。

しかしヨウムは、こうした見方への再考を迫る能力を示した。

ターニングポイントとなったのは、認知科学の専門家で比較心理学者のアイリーン・ペッパーバーグが主導した、数十年にわたる研究の成果だった。1994年に『Journal of Comparative Psychology』に掲載された最初の論文は、「音と報酬のあいだに関係があると認識する以上の行動がヨウムに可能かどうか」がテーマだった。

具体的には、ヨウムが音声ラベルを、参照的に用いることが可能かを検証した。これはつまり、鳥の話す「言葉」が、単に報酬を引き出すトリガーではなく、世界に存在する何かを指し示しているかどうか、という問題だ。

特に数というラベルに関しては、厳密な検証が可能だ。数は抽象的であり、一つ一つがはっきり分かれており、大きさや色などの知覚で感じ取る特徴とは完全に分離可能であるという特質を持っているからだ。ゆえに、「いくつある?」と問われたヨウムが、関係のない変数を無視して、高い信頼度で正しく答えられるのであれば、抽象度の高い情報処理能力を持っていることが示される。これまでであれば、鳥類には手が届かないと考えられていたような高度な抽象化能力だ。

計数能力を検証されたヨウムの中でも最も有名な存在が、前述のペッパーバーグが研究対象としていた「アレックス」だ。アレックスの認知能力は、30年以上にわたって記録された。

アイリーン・ペッパーバーグ博士とアレックス(Rick Friedman / Getty Images)
アイリーン・ペッパーバーグ博士とアレックス(Rick Friedman / Getty Images)

アレックスは、「モデル/ライバル法」という手法で訓練された。これは、2人の人物がアレックスの目の前でやりとりをし、それぞれがアレックスの注意を引きながら、正しい動作と間違った動作をしてみせる、というものだ。これは、条件付けよりもコミュニケーションに力点を置いた手法だ。

訓練ののち、アレックスには、色やカテゴリーが異なるさまざまな物体が示された。例えば、赤と青の鍵やトラックといったものだ。その後アレックスは、特定の色やカテゴリーに入る物体の数をラベリングするように求められた。その際には、「青い鍵はいくつ?」「赤いトラックはいくつ?」といった質問が投げかけられた。

1994年の研究では、アレックスは1から6までの数を、声でラベリングする方法を身につけていた。ペッパーバーグのその後の研究では、さらに7と8も区別できるようになった。

重要なのは、アレックスが、それぞれの数を意味する単語を順番に唱えているだけではない、という点だ。特定の色の物体がいくつあるかを尋ねると、アレックスは、複数の研究のうち8割以上において、問いに関係ない要素を排除し、正しい数のラベルを回答したという。

特筆すべきは、物体の並ぶ順番を変えたり、一部分を見えなくしたりしても、アレックスの回答は正確だったという点だ。ここから、単純なパターン認識で数を把握している可能性は排除される。

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翻訳=長谷睦/ガリレオ

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