人気ゲーム「ドラゴンクエスト」シリーズのディレクターなどを務めてきた藤澤仁。集大成として挑むのは、世界で初めてのARG(代替現実ゲーム)の市場形成だ。
「工事現場の白い壁で物語を表現できないか、路上ではどうか。日常のなかでいつの間にか物語に触れている、そんな環境をつくれないかとずっと考えていました」
ARGを手がけるクリエイター集団「第四境界」の総監督でシナリオ制作会社ストーリーノート代表の藤澤仁はそう語る。ARGとはAlternate Reality Gameの略で、ゲーム機やアプリを使わず、現実世界を舞台に物語が展開するエンターテインメント。「代替現実ゲーム」と主に表現されるが、藤澤たちはこれを「日常侵蝕ゲーム」と呼んでいる。
代表作「人の財布」は、その名の通り誰かの財布を中身ごと購入できるARG。財布を開けると、学生証、レシート、封筒などが入っており、購入者はこれらを手がかりに持ち主について調べていく。すると、関連するウェブサイトや人物が現れ、隠されていた物語が次第に浮かび上がってくる。当初は100個の販売予定だったが、2023年10月にPARCOのオンラインショップで予告なく発売されると、即日完売。再販のたびに3分以内に売り切れ、その人気ぶりが話題を呼び、在庫がないなかで取材が殺到する異例の事態になった。同作はこれまでに累計数万個を売り上げている。
第四境界は、24年3月に本格的に始動。「人の財布」のほかにも、届いた一枚の給与明細から持ち主の正体を推理する「人の給与明細」、架空の少年院のウェブサイトを調査しながら真実を暴いていく「かがみの特殊少年更生施設」、架空のアイドルの写真集の謎を読み解く「ノンレゾン1st写真集〈QUINTET〉」など、1年9カ月のあいだに十数作品をリリースし、総プレイヤー数は200万人を超えた。ARGというジャンル自体は、01年に映画『A.I.』の宣伝手法として用いられたのが出自とされる。しかし、ARGそのもので継続的な収益化に成功した例は、世界中のどこにもなかった。



