筆者は75歳を迎える人間であるが、同年代の仲間と同様、人生100年時代を迎え、なかなか「悠々自適の老後」とはいかないのが現実である。まだ20年でも生きると考えると、限られた年金や貯金がインフレで目減りすることを前提に、第二、第三の人生を準備し、経済基盤を維持することが求められる。
そうした時代において、友人のA君が、会社を定年後に、地元で小さな洒落たケーキ屋を開いたが、それなりに繁盛しているようである。
彼は、筆者と同じ大学の工学部で博士号を取得し、技術者として大企業で永年勤めた人物であるが、伴侶がパティシエの資格を持っていたことから、思い切って、第二の人生を始めたのである。
誰もが、定年後の長い老後に経済的不安を感じ、人生設計に迷う時代において、こうした生き方もまた、一つの参考となる事例であろう。
筆者は、こうした経済基盤の作り方を、「いざとなったら、自分と家族が食べていけるような、小さなビジネスを立ち上げられる力」と称し、筆者の預かる学園では、「ユニーク・スモール・ビジネス力」として、若い学生たちに教えている。
しかし、このユニーク・スモール・ビジネス力を身につけるためには、通常のビジネス・スクールで学ぶような「事業構想」「市場戦略」「財務管理」「資金調達」「上場計画」といった知識よりも、もっと大切な、そして本質的な「三つの力」がある。
筆者は、20年以上にわたり、ビジネス・スクールで社会起業家育成に携わってきたが、上記のような知識は、大企業の新事業開発部門で働くときには、それなりに役に立つが、卒業後、実際に自分でスモール・ビジネスやソーシャル・ビジネス、NPOを立ち上げるときには、むしろ、次の「三つの力」こそが求められることを、数多くの人材の成功する姿、失敗する姿から学んできた。
第一は「人間関係力」である。
改めて言うまでも無く、この力は、すべてのビジネスの根本に求められる力であり、起業が失敗するときも、実は、この力の不足が原因となっていることが大半である。
実際、以前、最先端IT技術を用いた東大発のスタートアップ企業のリーダーと話す機会があったが、彼が経営者として最も悩んでいたのは、技術開発の問題ではなく、仲間との人間関係であった。
同様に、スモール・ビジネスにおいては、この人間関係力が、さらに重要になる。アルバイトのスタッフがすぐに辞めてしまう、取引業者と上手くいかない、といった理由で壁に突き当たるスモール・ビジネスは、決して少なくない。



