キャリア

2026.03.05 13:30

スモール・ビジネス 三つの力:田坂広志の深き思索・静かな気づき

第二は「顧客目線力」である。

advertisement

ビジネス・スクールでは、「顧客のニーズを掴む」「顧客中心のサービスを提供する」といった言葉を語りながら、実は、顧客の視点に立って物事を考える力の弱い人材が、しばしば目につく。こうした人材は、上記のような言葉を語ることに自己陶酔している反面、心の中は、密やかな「自己中心」や「自社中心」が支配していることが多い。しかし、残念ながら、本人は、その姿に気がついていない。

これに対して、スモール・ビジネスで成功する人は、こうした「顧客中心」といった観念的な言葉は語らないが、その所作動作や思慮思考そのものが、顧客に対する気配りや配慮、温かさや思いやりに満ちており、「顧客目線」が身体化されている。

第三は「現場研究力」である。

advertisement

現場研究と言うと、ビジネス・スクール的な思考では、すぐに市場調査や顧客分析などの言葉が浮かび、統計データに基づく市場動向や顧客ニーズの分析に向かうことが多いが、狭い地域コミュニティや限られた顧客層を相手にするスモール・ビジネスにおいては、むしろ、そうした机上の分析よりも、実際にその地域を歩きながら競合店を顧客として徹底的に観察・研究することや、顧客と直接に触れ合い、その気持ちや心の動きを皮膚感覚で掴むような「現場研究力」こそが求められる。

しかし、実は、これらの「三つの力」は、高学歴で大企業に入社し、デスクワークで仕事をしてきた人にとっては、身につけることが難しい力である。

なぜなら、受験競争の中で無意識に染み込んだ「自己中心性」や、それゆえ苦手とする「人間関係力」、体験よりも情報で物事を考える「抽象思考」、という「三つの不利」があるからである。

されば、それに気づき、謙虚な脱皮を行うことが、スモール・ビジネスに向かう第一歩であろう。


田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、21世紀アカデメイア学長。多摩大学大学院名誉教授。世界経済フォーラム(ダボス会議)専門家会議元メンバー。元内閣官房参与。全国から1万名を超える経営者が集う田坂塾・塾長。著書は『人類の未来を語る』『教養を磨く』など、国内・海外で150冊余。tasaka@hiroshitasaka.jp

タグ:

連載

田坂広志の「深き思索、静かな気づき」

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事