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2026.03.04 13:30

AIは直木賞を選べるか:川村雄介の飛耳長目

仲間の元文学青年たちは、折に触れて盃を交わしながら文学賞を論じる。今回は直木賞について口角泡を飛ばしていたが、結論は満場一致だった。住田祐さんの『白鷺立つ』である。ほかの候補作品も素晴らしいが、彼らの感受性にいちばん刺さった作品がこれだった。しかし、直木賞審査員たちの出した結論は違った。元大学教授の髭だらけの老顔がもっともらしく解説する。「これ、ケインズの美人投票理論と同じ。自分が一番良いと感じる作品ではなく、読者がいちばん良いと思うものはどれか、って視点なんだ」。元出版社役員が反論する。「それじゃ堕落だ。審査員の作家さんたちはそんな評価はしないぜ」。髭面氏が再反論しようと口を開きかけると、老医師が割って入った。「まあ、ふたりとも熱くなるなよ。いい方法がある。今後は生成AIに審査してもらうことだ。審査会場費も謝礼も不要でコストがかからないし、今時AIの出した答えなら皆納得する」。

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AIなしの生活など考えられない昨今で、デジタルに疎い文系老人の私ですら、毎日ChatGPTやCopilotのお世話になっている。散在する膨大なデータを時系列に整理してグラフ化したり、議論が分かれる政策課題の論点を調べたり、自分の日本語論考を外国語に翻訳したり、今や従来の検索サイトより利用頻度が高くなっている。何しろ作業が速い。それでできた暇な時間には、趣味で撮った写真を洋画風や浮世絵風、動画に加工して遊んでいる。生成AIはその能力とともに普及スピードがすさまじい。携帯やスマホをも凌ぐと感じている。知り合いのデザイン事務所はベテランふたりに辞めてもらったという。

なにごとも仕組みがわからないと納得しない性質なので、この1、2年はAIの入門書や概説書を10冊以上渉猟してきた。ディープラーニングやニューラル・ネットワーク、トランスフォーマー等々の言葉も覚えた。けれどもいまだに仕組みを理解したというにはほど遠い。それゆえ、AIがどこまで進化するのか、楽しみでもあり不気味でもある。

ここでいつも頭に浮かぶのが、60年以上昔の漫画キャラである鉄人28号と鉄腕アトムだ。前者は無敵のロボットだが、リモコンで操縦する。♪敵にわたすな大事なリモコン、と主題歌にあるように、善に味方するか悪の手先となるかはリモコンの使い手である人間次第だ。自律からは程遠い高級機械のレベルである。対してアトムは、善と悪を自ら見分け、自分の実力や社会との関係に悩みつつ成長していく。見た目は愛らしい少年ロボットだが、心は人間そのものと言ってよい。自分の生みの親と育ての親を巡って胸が痛くなるような葛藤に苦しむように、古今東西のヒトが直面してきた永遠の課題に向き合っている。

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川村雄介の飛耳長目

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