ロシアの軍事ドクトリンは伝統的に砲兵を中心に据えてきた。大砲は戦場にもたらす破壊力の大きさから「戦場の王様」と呼ばれることも多い。現在のロシア・ウクライナ戦争ではドローン(無人機)の果たす役割が大きくなっているものの、砲兵戦力は依然としてロシア軍の戦闘力の中核を成しており、1日あたり1万5000発を超える砲弾を消費している。
だが最近、米スペースXが衛星通信サービス「スターリンク」へのロシア軍によるアクセスを遮断する措置を講じたことで、ロシア軍による大砲運用能力にも大きな影響が出ているもようだ。通信が途絶したために部隊間で混乱が生じ、これまでロシア軍の作戦で要となってきた砲兵能力の有効性が低下していると報じられている。
有効な大砲運用には信頼性の高い通信ネットワークが必須
現代の砲兵は、信頼性が高く靱性もある通信ネットワークに依存している。戦術レベルでは、前進観測者やドローン操縦士が敵部隊を確認した際に射撃を要請し、弾着修正を行うことが可能なのも、適時かつ安全な通信リンクが確保されているからである。また、機動部隊と火力支援を同調させ、歩兵や装甲車両の前進に先だって砲兵が敵を制圧または排除するうえでも通信は欠かせない。
作戦および戦略レベルでは、砲兵アセットの配置や情報フィードの統合、目標の特定、広範な作戦計画への火力の組み込みなどで、強靭な指揮通信ネットワークが求められる。ロシア軍の中央集権的でトップダウン型の指揮体系では、こうしたネットワークへの依存度がいっそう高くなる。本部・司令部が部隊に指示を出したり、前線部隊から適時に戦場データを受け取ってそれに基づく決定を伝達したりする必要があるからである。
スターリンクの喪失はロシア軍の戦略的な通信に重大な影響を及ぼしている。信頼性の高いこの衛星通信ネットワークが使えなくなったことで、前線部隊と本部・司令部の情報の流れが妨げられ、上層部は現場の状況を正確に把握できないまま命令を出さざるを得なくなっている。



