筆者はかつて、TOEFL iBT 34点(TOEIC 330点相当)という「英語戦力外」の状態からキャリアをスタートしました。その後、米国大手テック企業の事業部長として、日米欧の3大陸で多様な文化圏のメンバーをマネージしてきました。
その荒波の中で学んだ最も重要な生存戦略、それが「Managing Up(マネージング・アップ)」━すなわち、部下が上司をマネジメントする技術です。
「上司はリソース(道具)」である
日本ではホウレンソウ・根回しに代表されるよう、「上司に仕える、支える」というボトムアップの美学がありますが、欧米、特にフラットなテック企業において、マネジメントは「双方向の契約」です。
上司は絶対的な権力者ではなく、プロジェクトを成功させるための「最も強力なリソースの一つ」に過ぎません。有能な部下ほど、このリソースをどう使い倒し、自分の成果を最大化させるかを戦略的に考えています。また、上司の側も、AIの浸透や組織のフラット化によるマネージャーの負担増加という世界的なトレンドも背景に、自分を上手に乗りこなしてくれる部下を心から求めているのです。
なぜ、上司を放置してはいけないのか?
ある研究によれば、マネージャーはチームの貢献の30〜40%を認識できていないとされています。これは悪意があるわけではなく、彼らもまた膨大な業務に圧倒されている「一人の人間」だからです。
「やることをやっていれば、きっと誰かが見ていてくれる、いつかは分かってくれる」は、リモートワークや多国籍チームが当たり前の現代では通用しません。自分の成果を正しく評価させ、必要な支援を引き出すためには、部下からの積極的かつ明快な「逆マネジメント」が不可欠なのです。
実録:評価が分かれる「1on1」の決定的な差
私は毎週、メンバーと1on1を行いますが、そこで必ず投げかける魔法の質問があります。
“How can I help you?”(何かできることはある?)
この問いへの返しで、そのメンバーが「Managing Up」ができているかどうかが一瞬で判明します。
・伸び悩むメンバーの回答:
「いえ、特にありません。順調です」
━毎回この回答が続くと、上司は安心するどころか、「課題が見えていないのではないか」と不安になり、結果としてマイクロマネジメント(過干渉)を招きます。
・上司をマネジメントするメンバーの回答:
「案件Aの調整でリソースが足りず、YY氏と調整を試みましたが、ZZの理由で止まっています。XX部長、あなたのやるべきことは、YY氏に直接連絡して優先順位を上げさせることです。依頼文のドラフトとデータはここに用意しました。明日までに送っておいてください」
これこそがManaging Upの真髄です。上司に「何をすべきか」を指示し、そのための武器(資料)まで提供する。ここまでされると、上司は「このメンバーはセルフマネジメントができている」と確信し、全幅の信頼を置くようになります。



