注文
トリュフの追加はやめましょう。ホストには常に予算というものがあります。いくらご馳走になる身だからといって、相手の懐事情を無視して和牛や伊勢海老、アワビといった追加料金を要する食材を注文するのはあまりに配慮に欠ける行為です。
時に、奸智に⾧けたレストランは、ホストが断りづらい空気を利用してゲストに直接トリュフやキャビア、あるいは食後のシャトー・ディケムなどを勧めてくることがあります。しかし、これらは界隈で「トリュフ・ハラスメント」とも呼ばれる、ホストを窮地に追い込む無礼な振る舞いです。ホスト自らが提案しない限り、これらはすべて丁重に断りましょう。そもそも、それらの食材を料理に組み込む必然性があるのであれば最初からコースの構成に含むべきです。ゲストの課金によってようやく完成するようなコース料理などレストランの見識を疑いますし、貴方がその無粋な商魂に加担する必要はありません。
ワインの選定はホストに委ねるのが基本ですが、仮に「好きなものを何でも選んでいいよ」と促されたとしても、その言葉を真に受けて無遠慮に高いボトルを指すのは考えものです。ここではリストの下限に近い価格帯のシャンパーニュあたりを注文し、節度ある態度を示すのが賢明でしょう。ホストがより上のクラスを望むのであれば、そこからさらに提案があるはずです。まずは最も控えめなラインを提示し、主導権をホストに返し続けるのが失礼のない振る舞いと言えるでしょう。
食べきれない量を注文するのは慎むべきですが、反対に、席に着くなり「あまりお腹が空いていない」「体調が悪い」と予防線を張るのも同じくらい不作法な行為です。重要な会食であれば、万全の体調で臨むのがゲストとしての最低限の準備。たとえ不調が真実であったとしても、それを開示することにより、何か事態が好転するのでしょうか。ホストを不安にさせ、せっかくの料理の味を曇らせるだけです。たとえ食欲がなくても口に出す必要はありません。相手のテンションを下げるだけの無用な報告は控え、平時と変わらぬ顔で席に留まる。こうした自己規律こそが相手への敬意となります。
アレルギーや苦手な食材については日程調整の段階で必ず伝えておきましょう。当日の注文時に申し出ても、お店側の対応には限界があり、何より着席してから「あれはダメ、これもダメ」と細かな確認を繰り返すのは、その場の高揚感に水を差し気まずい空気を作る原因となりかねません。また、極端に食が細い場合やアルコールを受け付けないなどの体質的な制約も事前の共有を怠らないでください。ホストが心を砕いて注文し、シェフが腕を振るった料理を大量に残してしまうのは、たとえ生理的な理由であっても、やはりどこか悲しいものです。


