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2026.02.25 16:30

世界最小手術針が切り開く医療の空白地帯 河野製作所の成長戦略

河野淳一|河野製作所

河野淳一|河野製作所

Forbes JAPAN 2026年4月号』では、規模は小さくても高い付加価値を誇る中小企業を表彰する「スモール・ジャイアンツ」を特集。激動の時代に、大胆に自らを変化させ、地域から世界に飛躍する「小さな巨人」を発掘するプロジェクトは9回目を迎えた。グランプリに選ばれたのは「卵の総合ソリューション企業」ナベル(京都市)だ。部門賞を含めスモール・ジャイアンツに選ばれた7社は、日本のモノづくりを独自のブランドに昇華させた。それらは単なる製造業を超えた「文化の製造業」や「感性の製造業」と言っても過言ではない。ファイナリストたちの新・成長モデルに迫る。

髪の毛より細い手術針で医療の「空白地帯」を切り開いた河野製作所。「CROWNJUN」ブランドを掲げて探究する、次なる成長の柱とは。


顕微鏡をのぞきながら細い血管や神経を縫い合わせる「マイクロサージャリー(微小外科)」と呼ばれる医療の世界で、河野製作所の名前を知らないものはいない。同社が開発するマイクロサージャリーに不可欠な微小な手術針は、世界のスーパードクターたちの垂ぜんの的だ。自社製品を「CROWNJUN(クラウンジュン)」と名付けてブランディングも強化する。2024年には、表参道にブランド名を冠したカフェまでオープンした。いったい河野製作所は、何を目指しているのか。

目を凝らして見ないとわからないほど小さい「世界最小の手術針」。その直径は、0.03mm(30ミクロン)で、髪の毛よりも細い。この針が、河野製作所が目指す方向を象徴している。「外科分野では、50〜500ミクロンの世界は治療できない『空白地帯』といわれてきました。そこに我々が初めて参入し、市場をつくりました」と社長の河野淳一は語る。例えば、体中に張り巡らされているリンパ管の細さは0.5mm(500ミクロン)ほどだ。河野製作所が微小な手術針を開発するまでは、手術で切断されたリンパ管は縫い合わせるすべがなかった。

「リンパ管が切れたままだとリンパ液が『垂れ流し』になるので、手術後のむくみにつながります。子宮がんの手術後に尿もれに悩まされていた女性が、実は『リンパ液もれ』だったという話まであります」

河野がこの微小な世界に参入することになったきっかけは、30年近く前。ある学会で、以前から付き合いのあった医師に声をかけられた。「普通の大きさの手術針では手が出せない『無医村』のような領域がある。そこで新しい医療分野をつくりたい」。その熱意にほだされると同時に「うちにしかできない」と思った。

河野製作所は、服部時計店(現・セイコーグループ)の技術者だった河野の祖父が、計測機器用の指針を製造する会社を起こしたのが始まりで、その後医療機器メーカーへとかじを切った。「もともと時計技術の応用として、針をつくり始めた会社です。ほかにはないオンリーワンの微細加工技術には自信がありました」。

だが、河野が新たな挑戦を始めたのは、社長に就任して間もない時期。しかも、会社には失敗を恐れて新しいことに挑戦しない慣習がはびこっていた。当然、微小な手術針の話をもち帰っても、現場から「できるわけがない」と反発を食らった。河野はあきらめなかった。医師や大学、顕微鏡メーカーとコンソーシアムをつくって社員を連れていき、どうしたら新しい手術の実施環境を確立できるかを議論した。

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文=中居広起 写真=アーウィン・ウォン

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