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2026.03.01 13:30

東京ガス笹山社長 800億円投資決断の舞台裏 脱炭素と経済の両立戦略

笹山晋一|東京ガス 取締役代表執行役社長 CEO

笹山晋一|東京ガス 取締役代表執行役社長 CEO

2025年4月、東京ガスは石油メジャーのシェブロンがもつテキサス州のシェールガス権益の70%を取得すると発表した。費用は総額約800億円だ。同社は23年末にシェールガス開発を行うロッククリフ・エナジーを約4000億円で買収したばかり。シェールガス開発にさぞ前のめりなのかと思いきや、米国における一連の投資において、最終的な経営判断を下した社長の笹山晋一は、当時の検討時における複雑な心境をこう明かした。

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「100%の自信があったわけではありません。シェールガスは価格変動が大きく、過去には撤退や減損に至った案件もありました。今回も社内でリスクを心配する意見は多かった」

確かにシェールガス開発は単体だとリスクがある。それでもゴーサインを出したのは、北米のガスマーケティング・トレーディング会社への出資など、資源開発の上流だけでなく中下流へのバリューチェーン構築を念頭に置いていたことが大きい。天然ガスのバリューチェーンでポートフォリオを組めば、シェールガスのリスク発現時は他の事業でカバーでき、逆に追い風が吹けば大きなリターンを狙える。

「この先の東京ガスグループの柱をつくるため、リスクにしっかりと対応しつつ、可能性をより重視する決断をしたということ。決めたときには確信はまだなかったですが、その後、日本の第7次エネルギー基本計画で天然ガスの位置づけが見直されるなどして、自信は100%に近づいた」

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強い確信がもてないとき、自らの不安を隠して社員を鼓舞するリーダーもいれば、リスクも含めて現実をありのまま話すリーダーもいる。笹山は明らかに後者のタイプだ。

「このときも『本当に難しい案件』と率直に言いました。リスクに向き合ってこそ、それに手が打てます」

自ら腹を割って話すだけではない。相手からも本音を引き出すよう努めるのが笹山流だ。好きな言葉は古典「貞観政要」に出てくる「三鏡」。なかでも「人の鏡」、つまり周囲の直言に耳を傾けることを心がけている。

その姿勢は、25年10月発表の中期経営計画(2026-2028年度)の策定時にも表れた。これまで東京ガスは、中計期間中にやることを決め、その積み上げで目標をつくっていた。しかし「結果へのこだわりが弱かった」ことから、今回は先に目標を決め、やるべきことを逆算。この変更だけでも激震だったが、新中計では従来の「30年度利益目標2000億円」の2年前倒しを決定。高い目標設定に経営陣や現場から戸惑いの声があがった。

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文=村上敬 写真=苅部太郎

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