この戦略はまた、発達の可塑性という優位性をもたらした可能性がある。新生児が経験する神経発達の極めて重要な転機のいくつかは、豊かな社会環境を必要とする。言い換えれば、「胎児の神経発達」と「母体の安全」がトレードオフの関係にあったからこそ、臨界期における乳幼児の神経回路形成に、生育環境が影響を与える余地が生まれたのかもしれない。
ヒトの乳幼児はあまりに手がかかるため、母親だけが子育てをするのはレアケースだ。学術誌『Mothers and Others』に掲載された人類学研究によれば、ヒトの進化においては、協同繁殖、すなわち母親だけでなく父親、祖父母、年長のきょうだい、その他の集団メンバーも子育てに参加することが、中核的な役割を果たした可能性が高い。
こうした観点から言えば、新生児が未熟で無防備な状態で誕生するからこそ、幅広い社会的サポートが不可欠になったと考えられる。そして結果的には、以下のような形質につながる進化的な選択を推し進める要因となった可能性がある:
・強固な社会的絆
・情動的な同調
・親から子への長期的投資
・世代間の文化伝達
生物学的な観点から見れば、依存期間が長くなることは、「学習期間」が延長されることを意味する。ヒトは他の霊長類に比べて非常に長い子ども時代を過ごすが、これによって言語や道具の使い方、社会規範、そして文化的な知識を学ぶことが可能になる。
つまり、新生児の無力さは、見かけほどの「コスト」ではないのかもしれず、それはヒトという種にとっての「適応的な特性」であると言えるのだ。
二次的晩成性は、ヒトの進化に何をもたらしたのか
さらに、近年の解剖学研究から、女性の骨盤の形態は、従来考えられていたほどは運動能力を制約しないことが示唆された。2015年に学術誌『PLOS One』に掲載された論文の著者らは、骨盤の幅が広がっても、歩行効率の顕著な低下は起こらないと論じ、古典的なトレードオフ仮説に異を唱えた。
ヒトの進化の過程で実際に起こったことは、脳と腰という2変数の単純な方程式で表せるものではなく、以下のような多くの変数が関与する、複雑な現象だったのだろう:
・ホモ属における脳容量の増大
・妊娠の代謝面での限界
・複数の選択圧によって形成された骨盤の形態
・無防備な新生児を保護する社会システム
進化は、手持ちの材料で急場をしのぐように作用する。ヒトの誕生時の発達段階は、解剖学的・代謝的・社会的制約の相互作用を反映したものであって、たった一つの進化的ボトルネックを表すものではないのだ。
このように考えると、ヒトが未熟で無防備な状態で生まれるのは、そのおかげで可能になる以下のような形質が、進化のなかで選択されてきたためだとも考えられる:
・大量のエネルギーを必要とする大きな脳
・直立二足歩行
・出産時の高い母体生存率
・協力的な社会システム
・学習期間の延長
これらすべての結果として、私たちヒトは、新生児のうちは、歩くことも食べることも、自分の頭を支えることさえもできない種となった。しかし、無防備な新生児の段階を受け入れたからこそ、ヒトはやがて言語や数学、交響曲、宇宙船を生み出すようになった。一人の進化生物学者として言わせてもらえば、これは実に途方もないトレードオフだったのだ。


