これは主に、GLP-1受容体作動薬の輸入拡大によってもたらされている。GLP-1薬は体内ホルモンの働きを模倣する薬剤の一種である。2025年には、米国が輸入したホルモン・ステロイド系医薬品の96%前後がアイルランドからだった。この品目のアイルランドからの輸入額は5年で408億8000万ドル(約6兆3700億円)も増え、563億ドル(約8兆7700億円)に達している。
一方、米国の貿易赤字が縮小した国もあり、ここでは2例を挙げておこう。
中国との米国の貿易赤字は、第1次トランプ政権が2018年に導入し、続くジョー・バイデン政権でも維持された関税で抑制され、5年で34.39%(1059億ドル=約16兆4900億円)圧縮されて2020億7000万ドル(約31兆5000億円)に減った。2018年に米国の対メキシコ赤字の5倍ほどあった対中赤字は、2025年には対メキシコ赤字をわずかに上回る程度にまで縮小した。
米国の対ロシア貿易赤字は、2020年から2025年までに73.36%減少したが、けっして好ましい理由によるものではない。赤字はこの間に126億4000万ドル(約1兆969億円)減り、わずか32億ドル(約4985億円)になった。
米国と欧州のほとんどの国は、2022年の北京冬季オリンピック直後に始まったロシアのウクライナ全面侵攻を受けて、ロシアを経済的に孤立させることに努めてきた。しかしロシアは、中国やインドへの原油輸出に主に支えられて何とか持ちこたえ、戦争を継続してきた。
2025年の貿易データの裏には、表計算やグラフにとどまらないストーリーがある。それはAIのストーリーであり、医薬品のストーリーであり、また、変化するエネルギー力学のストーリーである。これらのストーリーは、米国がどの国と、なぜ貿易をするのかというプレーブックを書き換え続けている。つまるところ貿易はたんなる赤字や黒字の問題ではない。それは、急速に変化する世界に米国がどのように関わっていくのかというストーリーであり、イノベーションと自立、相互依存の間の均衡を定義するものである。


