スポーツ

2026.02.25 12:00

フィギュア五輪金メダリストのアリサ・リュウ、中国のスパイに狙われた理由

イタリア・ミラノ冬季五輪のフィギュアスケート女子シングルで金メダルを獲得した米国のアリサ・リュウ。2026年2月19日撮影(Jamie Squire/Getty Images)

イタリア・ミラノ冬季五輪のフィギュアスケート女子シングルで金メダルを獲得した米国のアリサ・リュウ。2026年2月19日撮影(Jamie Squire/Getty Images)

米国人フィギュアスケーター、アリサ・リュウがミラノ・コルティナ冬季五輪で金メダルを獲得した。だが、その裏には同選手の家族と中国当局を巡る複雑な物語があった──。

アリサは2022年、16歳で北京冬季五輪に初出場した。その数週間後、米司法省は、中国政府のためにスパイ活動を行ったとして5人を起訴したと発表した。このスパイ活動は、中国の民主主義を提唱してきた米在住の中国系移民を標的としていた。

アリサの父親であるアーサー・リュウは同年3月、米AP通信に対し、自身と娘の両方が中国のスパイ活動の標的にされたと明かした。米オリンピック委員会(USOPC)の職員を装った男から電話があり、パスポート(旅券)情報を要求されたが、父親は開示を拒否したという。

アーサーは1989年の天安門事件を巡って中国共産党政府に抗議し、20代で政治亡命者として中国を離れ、米サンフランシスコに移住した。そこでアリサを含む5人の子どもを父子家庭で育てた。

中国のスパイ疑惑について、アーサーは「同国の人権侵害を含む政治的な発言を控えるよう、われわれを威嚇する」意図があった可能性が高いと述べた。さらに「1989年に政府に異議を唱えた結果、人生がこうなることを受け入れている」と吐露した。

アーサーは、娘のアリサがインスタグラムに投稿したメッセージを中国政府が把握していたことを捜査中に知ったと打ち明けた。その投稿は、中国によるウイグル族への人権侵害への関心を喚起する内容だった。アリサは2022年の冬季五輪で北京に滞在中に男性に声をかけられ、アパートまでついてくるよう求められたという。アリサの北京冬季五輪への出場は中国への初訪問であり、父親はスパイに狙われる恐れがあっても娘の五輪出場を止めなかったと述べた。「これは娘のための瞬間だ。娘にとって一生に一度の五輪出場の機会なのだ」

アーサーは中国四川省の山間の小さな村で生まれ育った。当時は電気も通っていなかったという。中国政府が学生主導の民主化運動を弾圧した天安門事件当時、アーサーは広州の中山大学の学生だった。中国政府が報告した天安門事件による死者数は241人だったが、実際には2000人以上が死亡したとの推計もある。

アーサーはその後、デモやハンガーストライキの組織化を手伝った。米紙USAトゥデーの取材でアーサーは、「中国人民解放軍がどうして自国の学生や北京市民に対して武力を行使できるだろうか?」と語った。アーサーは別の抗議行動を組織した直後、自身が政府の「最重要指名手配リスト」に掲載されていることを知った。当局から事情聴取を受けたが、抗議活動に参加した他の学生の名前を明かすことを拒否した。「刑務所行きは時間の問題だった」

アーサーは1989年の夏、中国から香港へ逃亡したが、もし中国当局に捕まっていたら刑務所か労働収容所行きになっていた可能性があるという。その後、アーサーは香港を離れ米カリフォルニア州へ渡り、弁護士資格を取得して自身の法律事務所を開設した。

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翻訳・編集=安藤清香

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