断ち切れない「慣性の鎖」
鈴木:ところで、ファミリー企業の社長や創業社長、あるいは外部から招聘されたCEOの方から、「時間がない」という悩みを聞いたことはありますか。
CEO:言われてみると、あまり聞かないですね。
鈴木:たとえ同じような業種や規模の企業を率いていても、社長になるまでの経路が異なれば、時間との向き合い方に違いが生まれることがあります。なぜだと思われますか。
CEO:会社に対するオーナーシップだけでなく、時間に対するオーナーシップも強いんでしょうね。
何人かのオーナー企業の社長とお付き合いがありますが、彼らはそもそも会社だけでなく、人生全般について「自分が決める」という感覚を強く持っています。どこで食事をとるか、誰と会うか、誰と付き合うか。何に時間を使うか、すべてのことを人任せにしません。それは、わがままというよりも、意思決定の主体は常に自分にあるという姿勢なのかもしれません。
鈴木:では、なぜいわゆる「雇われ社長」の多くは、その感覚を持ちにくいのでしょうか。
CEO:私の場合ですが、入社して以来20数年間、ずっと今の会社でキャリアを積んできました。組織のルールや人間関係の中で求められた役割に応じ、結果を出し続けていたら、気が付くと社長という立場になっていた、というのが正直なところです。
会社の期待に応えることが習慣になっているんです。だから時間を取ってほしいという社内の期待に一生懸命応えて、その結果、今のようなスケジュールになっているんだと思います。
鈴木:なるほど、社長になってもその行動様式は簡単には変わらなかったのですね。「期待に応える」とおっしゃいますが、そもそも社長とは、誰の期待に応える存在なのでしょうか。
CEO:本来は株主だと思います。株主から経営を委任され、結果を出すことを期待されている。
……であればそのために、時間の使い方も結果を出すために変えないといけませんね。鈴木:お話ししていると、頭では何が必要かはわかっていらっしゃるように感じます。それでもなぜこのテーマが、1年以上も問題であり続けているのでしょうか。
CEO:慣性に抗えずにここまで来てしまった、と感じます。
鈴木:誰かの話ではなく、ほかでもないあなたがこの慣性に抗えないのはなぜでしょう。
CEO:……お恥ずかしい話なのですが、正直、どこかで社員に社長として必要とされていたい、という気持ちがあるのだと思います。呼ばれ、求められると嬉しいですし、業績も順調なので、なかなか会社の期待に応えるという鎖を断ち切れません。ただ、どこかにモヤモヤした感じが残っています。


