SMALL GIANTS

2026.03.02 14:30

海外トップメゾンが日参する和歌山。エイガールズの「感性の製造業」

山下智広|エイガールズ

三位一体のブランディング

しかし、成功への自信が揺らぐことはなかった。「尾崎のつくったものを手にしたお客さんの笑顔や、『こんなもの見たことない』といった驚いた顔。それで十分でしたね」と山下は言う。そこで、山下はニッターや染工場の経営者や職人たちを半ば強引にプルミエール・ヴィジョンに連れていくことにした。「行く前には発注すら半信半疑だった彼らが、『1週間後に製品がないとコレクションから外される』といった欧米のシビアな現実とスピード感を目の当たりにし、我々が求めるスピードや目指す場所を理解してもらえるようになりました。何より、自分たちの編みや染めの技術が世界で評価されている事実を体感し、彼らの誇りが刺激され一石二鳥の効果を得られました」と打って出る準備が整った。

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「変化が見えたのは、初出展から4年目の08年くらい。欧米のブランドとのタイアップやコレクションのすべてをA-GIRL’Sの生地でつくりたいとの申し出が徐々に増え始めたことで、ブランドが浸透したことを感じましたし、信頼を得たなと思いましたね」。

そこに一役買ったのが、現在副社長を務める山下装子の入社だった。彼女は、サンプルなど本契約に至らない段階では口約束で済ましていたものをルール化するなど組織の基盤を強化するとともに、生地に「LOTUS」「CLOUD」などと名前を付け、生地を単なる素材から物語をもつ存在へと変えた。面白いのは、ある有名メゾンの代表がブースを訪れた際、偽物だと思い込んだ山下と尾崎が追い返そうとしたところを装子の機転で救うなど、「海外で生まれ育った彼女が入ったことで、組織体制だけじゃなく、コミュニケーションの面でも助かった」と、貢献の大きさを山下も認める。

結局、3人で役割を分担することで海外での事業を軌道に乗せ、「エモーショナルニット」や「Tシャツの聖地」として世界での認知を広げた。A-GIRL’Sの顔となるプロダクト、価値を生み出すゼロからイチの部分を尾崎が担い、装子はその価値を2や10のビジネスに広げていく役割を。そして多種多様でどんなに難しい注文でも実現していく和歌山のニッターや染工場、縫製工場などとの調整を山下が行うことで、和歌山の小さな企業は、成長の流れをつかんだのだ。10年には、ロサンゼルスのブランド「Band of Outsiders」とのコラボレーションを行い、タグにA-GIRL’Sの名前も入る異例のWネームが話題を呼び、日本のファッション界も注目。逆輸入のように国内需要が増えた。16年には、飛躍のきっかけになったプルミエール・ヴィジョンで、会社の顔である尾崎が「最も影響力のある6人のテキスタイルデザイナー」のひとりに選出されるなど、今や世界のトップブランドに愛されるテキスタイルメーカーといわれる。気づけば、事業の海外比率も50%までになった。

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A-GIRL’S和歌山本社で開催された「WAKAYAMA KNIT PROJECT」。この本社を目がけて海外のトップメゾンから地元の家族までが集う。
A-GIRL’S和歌山本社で開催された「WAKAYAMA KNIT PROJECT」。この本社を目がけて海外のトップメゾンから地元の家族までが集う。
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文=古賀寛明 写真=アーウィン・ウォン

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