SMALL GIANTS

2026.03.02 14:30

海外トップメゾンが日参する和歌山。エイガールズの「感性の製造業」

山下智広|エイガールズ

山下智広|エイガールズ

Forbes JAPAN 2026年4月号』では、規模は小さくても高い付加価値を誇る中小企業を表彰する「スモール・ジャイアンツ」を特集。激動の時代に、大胆に自らを変化させ、地域から世界に飛躍する「小さな巨人」を発掘するプロジェクトは9回目を迎えた。グランプリに選ばれたのは「卵の総合ソリューション企業」ナベル(京都市)だ。部門賞を含めスモール・ジャイアンツに選ばれた7社は、日本のモノづくりを独自のブランドに昇華させた。それらは単なる製造業を超えた「文化の製造業」や「感性の製造業」と言っても過言ではない。ファイナリストたちの新・成長モデルに迫る。

極限までの薄さと滑らかさで世界を驚かせ、高価格帯市場を切り拓いた生地のデザインハウス。産地分業制の壁を越え、世界のトップメゾンが指名買いに和歌山を訪れる現象が今起きている。


2004年、フランス・パリで行われる世界最高峰のテキスタイル見本市「プルミエール・ヴィジョン」の会場で、日本から出展されたある生地が注目を浴びた。“ティッシュウェイト”と絶賛された生地は、その名の通りの軽さや透き通るような薄さはもちろん、その肌触りが話題となった。当時はしっかりとした生地がトレンドで、それは真逆のものだったが、有名メゾンのデザイナーたちの間で、「こんな素材は見たことがない」と口コミで広がり、気づけばブースの前には長蛇の列ができていた。出展したのは和歌山のテキスタイルメーカーA-GIRL’S。家業を継ぐために戻ってきたばかりの山下智広が、海外市場開拓のために初めてのプルミエール・ヴィジョンに参加し、これ以上ないほどの手応えに心震えた瞬間だった。

ところが、その衝撃は結果に直結しなかった。「確かに、当社のファブリックディレクターの尾崎孝夫がデザインしたティッシュウェイトの評判はすごかったものの、その後の3年間は赤字続きでした」と山下。ものの評価は高くても、なかなか海外市場に入っていけないのが多くの日本の産地が抱える課題だ。では、山下はこの問題をどう乗り越えたのか。そして、今や世界中のラグジュアリーブランドがわざわざ訪れる和歌山の生産現場とは、どのような場所なのだろうか。

どんなにモノが良くても……

桜の名刹として知られる紀三井寺のすぐ近く、A-GIRL’Sの本社がある和歌山市の三葛(みかずら)地区を歩くと、どこからともなくガチャ、ガチャッと機械を動かす音がする。100年近く前のものから、最新式までさまざま。いずれの工場も丸編みニットの編み機が並んでおり、回転しながら糸を取り込み、筒状の生地を編んでいる。和歌山ニットと呼ばれるこのニットは、多彩な編み機と卓越した職人技で、大量生産のものとは一線を画す伸縮性と軽さ、その肌触りから感性を刺激するニットといわれている。

丸編みニットの国内シェア1位である和歌山ニットの起源は、紀州藩が紀ノ川沿いで栽培されていた木綿を使った足袋づくりまでさかのぼる。技法は織物に受け継がれ、さらに1909年、スイスから和歌山に5台の丸編み機がもち込まれたことで、ニットへとつながっていった。以来、防寒に優れたニットはメリヤスと呼ばれ、軍服や肌着などの需要を背景に産業化した。

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文=古賀寛明 写真=アーウィン・ウォン

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