米国では現在、AIの急速な普及によりデータセンターの電力需要が爆発的に増加している。しかし、大量の電力を消費する施設には地域住民の反発が強く、既存の送電網への接続にも数年単位の待機期間が生じるなど、電力不足がAI開発の深刻なボトルネックとなっている。こうした中、2012年に東京で起業し、日本で再エネ事業「パシフィコ・エナジー」を成功させた起業家のネイト・フランクリン(46)が、テキサス州西部で全米最大規模となる「AI向け電力拠点」の構想を打ち出した。
テキサス州の油田地帯では、原油採掘の副産物である天然ガスが供給過剰に陥りやすく、価格がマイナス(引き取り手が対価を受け取れる状態)になることすらある。フランクリンは、この極めて安価なガスと約3400万平方メートルに及ぶ広大な未開の土地を活用する。州の送電網にはあえて接続せず、自前の独立した電力網を築くことで、低コストかつ迅速にデータセンターへ電力を供給する計画だ。
この前代未聞のプロジェクトを実現するには、ハイテク大手の参画と、約120億ドル(約1.9兆円。1ドル=155円換算)の建設資金が不可欠となる。フランクリンは、日本企業が米国のエネルギーインフラ投資に積極的な昨今のトレンドを踏まえ、日本マネーの引き込みに勝機を見出している。
テキサス州西部の平坦な荒野で、全米最大規模の発電施設を建設する計画を進行
パシフィコ・エナジーのネイト・フランクリンCEOは、テキサス州西部の平坦な荒野に、全米最大規模の発電施設を建設する計画を進めている。建設予定地のペコス郡は、約1万2400平方キロメートルの広大な土地にわずか1万4000人が暮らす極めて人口密度の低い地域だ。彼はすでに土地の取得オプションを確保し、テキサス州環境品質委員会から大気排出に関する許可も取得済みだ。この許可により、パシフィコは数十基の天然ガスタービンを設置し、7.5ギガワットを発電できるようになる。
出力750メガワットの太陽光パネル、蓄電容量1.8ギガワット時のバッテリーも併設する構想で、完成すればテキサス州の500万世帯分、あるいはニューヨーク市全体を賄えるだけの電力を供給できる規模になる。
約1.9兆円の建設資金は未確保、しかし今後の契約獲得に自信を示す
ただし、フランクリンはまだ120億ドル(約1.9兆円)の建設資金を確保しておらず、アマゾン、マイクロソフト、グーグルなどハイパースケーラーによるAIデータセンター建設に向けた確約も得ていない。そうした確約こそが資金調達を後押しする決定的な条件になると彼は考えており、今後の契約獲得に自信を示している。「この知能への需要こそが、現在進行中のあらゆる電力プロジェクトを正当化することになる」とフランクリンは語る。
「GWランチ」と呼ばれるこのプロジェクトは、突飛な話に思えるかもしれない。だが、ハイパースケーラー各社が2026年だけで6500億ドル(約100.8兆円)を投じると見込まれていることに加え、イーロン・マスクなどが太陽光発電で稼働する宇宙空間のAIデータセンター構想にまで言及している現状を踏まえれば、決して現実離れした話とは言い切れない。
完全に独立した運用を目指し、世界で最も安価なガスが手に入る点に着目
電力消費の大きさを理由にデータセンターの建設を却下する自治体も出ている中、フランクリンはコストと反発を抑えるため、テキサス州の電力系統を運営するテキサス電気信頼性評議会(ERCOT)の送電網に接続しない、完全に独立した運用を目指している。
彼がこの地に目をつけた最大の理由は、「世界で最も安価で豊富なガス」が手に入る点にある。建設予定地の数キロ先には、周辺油田で産出された天然ガスを集約する十数本のパイプラインが交差する「ワハ・ハブ」と呼ばれる地域がある。この地域の天然ガスは、石油掘削の過程で発生する副産物だ。原油価格が高騰して掘削が活発化すると、その副産物であるガスも一気に市場に流れ込む。ところが輸送能力や需要には限りがあるため、供給過剰に陥りやすい。その結果、ワハではガスを引き取ってもらうために生産者が逆に支払いをする、つまり価格がマイナスになることさえある。
「燃料を安価に、場合によっては事実上タダ同然で確保できるのなら、この地に全米最大の発電所を建てない理由は見当たらない」というのがフランクリンの見立てだ。
このプロジェクトは、総額2000億ドル(約31兆円)規模のAIスパコン群を稼働させる電力を生み出す可能性があると彼は述べている。そこには、エヌビディアなどが製造するGPUを詰め込んだラックが、数十万平方メートル規模の施設に並ぶことになるという。「一部の顧客は、将来的にいくらでもスケールできる電力基盤を求めている。2年前には数十ギガワット規模の話をしていたが、いまやその議論は数百ギガワットに及んでいる」とフランクリンは語る。
立ち上げ費用に続く外部からの資金調達では、出資者候補としては日本企業が有力
言うまでもなく、これは大きな賭けだ。パシフィコはまだ顧客を確保していないが、すでに天然ガスタービンを発注しており、2026年後半には最初の納入を見込んでいる。同社は、2028年にまず1ギガワット分のガス火力発電を立ち上げる計画だ。パシフィコは、これまでの立ち上げ費用を自社で賄ってきたが、今後は外部からの調達を迫られる。その資金の出資者としては、フランクリンの経歴を踏まえると、日本企業が有力だ。



