元側近は難を逃れたが、尹政権に関わった政治家や高官たちのなかには、今も検察の取り調べを受けている人物も少なくない。みな、目立たないよう、息を殺して生きている。何とも罪作りなことをしたものだ。戒厳令に関与して韓国軍防諜司令部の解体も決まった。軍事情報の中枢部門で、安全保障上の痛手は小さくない。
「権力の罠」はとてつもない代償を伴ったが、同じ悲劇は繰り返されるのか。李在明大統領の場合、日本に対しては微笑み外交を続けており、当初の「危ない人物」から今は「日本を大切にする好人物」と評価が百八十度変わった。ただ、現政権の関係者から話を聞くと、「礼儀正しい独裁者」と言った方がよいかもしれない。李氏はとにかく部下に仕事を全面的に任せることはしない。国務会議(閣議)などで指示を飛ばす場合、事前に部下たちが用意した文書にすべて手を入れる。部下は事前に準備した文書と異なる指示が降ってくるため、いつも会議で緊張しているという。
もともと、李氏は「一人の人間だけを信用することはしない人物」と言われていた。まだ政権発足1年にも満たず、慎重な政権運営が目立つが、歴代政権が陥った「権力の罠」にはまると、一気に独裁に走るかもしれない。
尹被告の元側近は最後に「高市早苗首相はどうなっていくのか。外形的には巨大与党だし、独裁に走る条件がそろっているように見えるのだが」と語った。政府関係者らによれば、高市氏も資料を読み込み、何でも抱え込もうとする半面、部下たちと意見交換する時間は限られているという。このため、暴走というよりも健康を心配する声がよく聞かれる。高市氏も李氏も、尹被告のような暴走劇は起こさないだろうが、今求められているのは「部下を信頼し、任せるところは任せる」という姿勢かもしれない。


