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2026.02.24 10:48

なぜ「信頼」なきマルチエージェントAIは崩壊するのか

AdobeStock

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エージェント型AI(自律的に行動するAI)が、実際にどれほど意味のあるインパクトを生み始めているのか気になるなら、次の数字を見てほしい。AIエージェント市場は2025年に76億3000万ドルと推定され、2033年には1829億7000万ドルへ拡大すると見込まれている。Gartnerによれば、マルチエージェントシステム(MAS)に関する問い合わせは、2024年第1四半期から2025年第2四半期にかけて1445%も急増した。

ここで言っているのは、単独で動くチャットボットではない。複数のAIエージェントが企業内で協働し、交渉し、いまこの瞬間にも自律的に意思決定しているという話だ。理論上(あるいは実務上)は素晴らしく聞こえるが、多くの人が見落としている点がある。信頼の仕組みがなければ、こうしたシステムはあっという間に崩壊しうるということだ。

誰も解決していない「信頼」の問題

私は十分な数の企業でAIに携わってきたから、デモで動く技術と、スケールしても機能する技術の違いが分かる。いま企業のAI導入の多くは、マルチエージェント型またはアクションベースのシステムを含む。だが要点はこうだ。財務、オペレーション、カスタマーサービスにまたがってエージェントが連携するようになると、信頼は「あれば望ましい」ものではなくなる。

1つのエージェントが会議をスケジュールするだけなら簡単だ。だが、10のエージェントがサプライチェーンを統括し、別のエージェント群がカスタマーサポートを管理し、さらに別のエージェント群がコンプライアンスを担うとなれば話は複雑になる。これらのエージェントは互いのデータを信頼し、互いの判断を検証し、矛盾を生じさせることなく連携しなければならない。たとえば、調達エージェントがベンダーと条件交渉を進める一方で、財務エージェントが予算配分を調整し、コンプライアンスエージェントが規制要件にフラグを立てる状況を考えてみてほしい。3つすべてが同じ「信頼できる唯一の情報源」に基づいて動く必要がある。そうでなければ、矛盾したコミットメントが生じることになる。私は、企業がエージェントシステムを立ち上げたものの、エージェント間の同期が不十分だった、あるいは同じ基盤OS上で動いていなかったために、財務チームが履行できない取引をAIが成立させていたと後から気づく例を見てきた。

MIT Sloanによれば、調査対象の経営幹部の76%が、エージェント型AIを「ツール」ではなく「同僚」に近いものと捉えている。この見方は、ガバナンス(統治)の考え方を根本から変えるべきだ。同僚であるなら、人間の従業員に求めるのと同様の説明責任の枠組みが必要になる。明確な責任分担、監査証跡、意思決定を説明できる能力がそれだ。

4つの柱を理解する

信頼性の高いマルチエージェントシステムを構築するための4つの柱がある。ガバナンス、説明可能性、ModelOps(モデル運用)、プライバシー/セキュリティだ。

• ガバナンスとは、明確な説明責任の確立である。AIエージェントが収益やコンプライアンスに影響する意思決定を行う場合、誰が責任を負うのかを明確にすることが重要だ。こうしたケースでは、監査証跡とリアルタイム監視は「あれば便利」ではなく「必須」として捉えるべきである。各エージェントの行動が、使用したデータ、適用したルール、参照した他エージェントを含む適切な文脈とともに記録されるようにしなければならない。そうすれば、何かが起きたときに原因を遡れる。

• 説明可能性が鍵となるのは、エージェントが自らの推論を説明できる必要があるからだ。エージェントが複雑な意思決定で協働する場合、関係者はその結論に至った過程を正確に理解する必要がある。規制の厳しい業界では、ブラックボックスの意思決定は通用しない。機微な顧客データをどう扱ったのか、資本をどう配分したのかについて、コンプライアンス部門は「AIがそう決めた」という説明を受け入れない。

• エージェントのエコシステムが拡大するほど、ModelOpsは必須となる。モデルのバージョン管理、パフォーマンスのドリフト(性能劣化)の監視、エージェント間のアップデート調整を行うシステムが必要だ。設定を誤ったエージェントが、システム全体にドミノ式のエラーを引き起こすことがある。私は、ある企業が1つのエージェントのロジックを更新した結果、適切なバージョン管理と依存関係のマッピングが欠けていたために、下流の3つのプロセスを意図せず壊してしまった場面を見ている。

• セキュリティは新たな次元を帯びる。あまり面白くない真実だが、マルチエージェントシステムは攻撃対象領域を拡大させる。強固な認証、エージェントのセグメンテーション(分離)、行動監視を確実に導入しよう。守るべき対象は、データそのものだけではない。自律的に意思決定するシステムを、正当な主体として保護する必要がある。想像してほしい。攻撃者が1つのエージェントを侵害できれば、適切な隔離がなければエコシステム全体を操作される可能性がある。

始め方

はっきり言っておくと、現段階で重要なのは「始めるべきかどうか」ではなく、「いつ始められるか」を考えることだ。Gartnerによれば、企業アプリケーションの40%は2026年までにタスク特化型AIエージェントを搭載する見込みで、2025年の5%未満から大幅に増加する。さらに同社は、経営陣が戦略を定義するために残された時間は3〜6カ月であり、それを過ぎれば「追いかける側」に回ると見積もっている。

1. シンプルに始め、まず1つのワークフローを選ぶ。初日から組織全体を変革しようとしてはいけない。複数のシステムが連携する必要のあるプロセス(例:請求書処理、顧客オンボーディング、サプライチェーン物流)を選び、アクセス制御、行動監視、フェイルセーフといった信頼メカニズムを組み込もう。

2. 最初のテスト運用がうまくいったら、成功したものをスケールさせる。システム構築に用いるフレームワークも重要だ。マルチエージェント連携に対して異なるアプローチを取るプラットフォームが複数存在する。たとえばCrewAIは役割ベースの協働に注力し、LangChainはワークフローのオーケストレーションを重視し、Semantic KernelはMicrosoftのエコシステムに深く統合されている。デモが最も優れているものではなく、自社のガバナンス要件をサポートするプラットフォームを選ぼう。

3. 相互運用性は「あれば望ましい」ものではないと心得る。Model Context Protocolは、エージェントとデータの相互作用の標準になりつつある。エージェント同士が共通のプロトコルで通信する必要があるからだ。独自仕様のサイロは、新しい機能を統合したり、パフォーマンスの低いコンポーネントを入れ替えたりする段階で、後々コストとなって跳ね返る。

最終的な現実確認

信頼を重視したシステムは、最初の段階で手間が増えるのか。ある程度はそうだ。スピードを信頼性と引き換えにし、自律性を説明責任と引き換えにすることになる。だが、より妥当な見方はこうである。信頼アーキテクチャを飛ばした企業は、エージェントのエコシステムが手に負えなくなった時点で、6カ月後にすべてを作り直す羽目になるかもしれない。

エージェントが大きな可能性を持つことは疑いないが、それが一貫して実現されているわけではない。McKinseyによれば、80%超の企業が、生成AIの取り組みから重要な収益貢献を見いだせていない。しかし私の観察では、成功しているのは、最初から信頼の枠組みを構築した企業であることが多い。エージェントをあらゆる場所に急いで展開するのではなく、明確なガバナンス、信頼できる監視、強固なセキュリティから始めたのだ。

マルチエージェントシステムは、私たちが準備できているかどうかにかかわらず到来する。いま備えることで、他社と同じように「パイロット地獄」に留まるのではなく、組織が本当に頼れるシステムを構築できるようになる。

forbes.com 原文

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