音楽カタログから収益を生み出し、数十年にわたって有利なリターンを提供
ただし、重要なのは、長期的に成長が見込める資産を見極めることだ。ゴールドマン・サックスのデータによると、世界の音楽収益は2024年の1050億ドル(約16.3兆円)から2035年には2000億ドル(約31兆円)に拡大する見通しだ。音楽カタログは、ラジオやストリーミング、SNS、広告、映画、テレビ番組などで使用されることで収益を生み、数十年にわたって安定したリターンをもたらす可能性がある。実際、フォーブスの推計では、最低投資額が500万ドル(約7億8000万円)のハーバービューのファンドIIは、2025年の最初の9カ月間で30%を超えるリターンを上げた。
2025年6月にハーバービューに5億ドル(約775億円)の与信枠を提供したKKRのアセット・ベースド・ファイナンス部門の共同責任者アビ・コーンは、こう語る。「金(ゴールド)を買うべきだと言う人は多い。しかし金は、音楽のように本質的なリターンを生み出す資産ではない。人々は常に音楽を求め、しかもその消費は今も拡大している」。
2020年12月には、ボブ・ディランが自身のカタログをユニバーサルに3億〜4億ドル(約465億円〜620億円)で売却したとウォール・ストリート・ジャーナルが報じた。2021年にはブルース・スプリングスティーンがソニーに5億ドル(約775億円)で自身のカタログを売却し、2022年にはスティングもユニバーサル・ミュージック・グループに約3億ドル(約465億円)でカタログを売却していた。
サウンドハウス・アクイジションズを約504億円で買収し、音楽カタログの持ち分を取得
2022年10月、クラークの会社は3億2500万ドル約504億円)でサウンドハウス・アクイジションズを買収し、業界に存在感を示した。この取引には、ラッパーのテック・ナインやR&B歌手のトレイ・ソングスなどのカタログが含まれていた。数カ月後、ハーバービューはネリーのカタログから一部楽曲を5000万ドル(約78億円)で取得したことがピッチブックのデータで示されている。また同じく2022年、同社はアッシャーが保有していたジャスティン・ビーバーの音楽カタログの持ち分を約4000万ドル(約62億円)で取得した。
「シェレスが成し遂げたのは、機関投資家向け金融の知識と、音楽やアートへの深い理解を融合させたことだ」とKKRのコーンは語る。
競合他社が一流アーティストの大型案件に集中する中で、クラークは「カルチャー全体を映し出すファンドを築きたい」と話す。彼女は、その目標に向けて、ヒップホップやR&B、海外ジャンル、ヘビーメタルまでを含む幅広いカタログを取得している。「競合は投資対象を特定のジャンルに絞っているが、我々はそうしない。我々が重視しているのは知的財産そのものだ」と彼女は言う。
もっとも、競合と同様にクラークにも時間という制約がある。音楽カタログの価値を最大化するには、権利が失効する前に収益を積み上げる必要があるからだ。米国の法律では、音楽著作権は35年後に更新され、元の権利者に戻る仕組みになっている。その間、権利保有者はアーティストが評判を損なう事態を避けることも望む。ショーン・コムズやR・ケリー、ザ・チックス(旧ディクシー・チックス)の例が示すように、スキャンダルは資産価値に影響を及ぼしかねない。最終的には、適切なタイミングで売却し、投資家に資金を還元することが求められる。
「私はこの会社を、業界を動かす存在にしたい」とクラークは語る。「我々は資本の受託者であると同時に、文化の担い手でもあるからだ」。


