宇宙

2026.02.23 10:30

「ISSは高度を上げて保存すべき」米下院がNASAに求める新プランの実現可能性

(c)NASA

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現時点のNASAの計画では、ISS(国際宇宙ステーション)は2030年に運用が停止され、2031年に南太平洋へ廃棄される予定だ。しかし、米下院の科学宇宙技術委員会は2月4日、そのプランを再検討するための修正案を全会一致で可決した。つまり同委員会は、退役後のISSを大気圏に再突入させて焼却するのではなく、軌道高度をさらに上げ、将来的な再利用に備えて保管・存続する可能性を探ろうとしている。この修正案を含む法案が上下院の本会議で可決されれば、トランプ大統領の承認を経て成立することになる。

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老朽化を理由に廃棄されようとしているISSを、さらに継続して利用することは可能なのか? 存続に足るほど軌道高度を上げることは、技術的、機材的に可能なのだろうか?

高度を上げ、軌道寿命を延ばす

米下院の委員会が可決した「2026年NASA再承認法案」とは、NASAの活動の法的根拠を更新し、中長期的な戦略指針を定めるための法案であり、ISS運用に関する修正案「セクション315」は、一条項としてこれに含まれる。ジョージ・ホワイトサイズ下院議員(カリフォルニア州選出、民主党)が提出したこの案を要約すると、以下のようになる。

「史上もっとも複雑な工学的成果のひとつであるISSは、米国の納税者が1000億~1500億ドル(約15兆5000億~23兆3000億円)を投資し、設計・開発から建設までに20年以上が費やされたもので、軌道上資源としての価値が高い。そのため退役後のISSを安全な軌道へ移送して、再利用に備えて保存することを検討するに値する」

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ただし、ISS退役に際して軌道高度を上げて保管するというプランはすでにNASAが検証しており、2024年にNASAが発行したホワイトペーパー(公式報告書)にその詳細が記されている。そして、このプランには複数の障壁があることが判明している。

ISSに接続した無人輸送機のエンジンを噴射してISSの高度を引き上げる。左はスペースXのカーゴドラゴン、右はロシアのプログレス
ISSに接続した無人輸送機のエンジンを噴射してその高度を引き上げる。左はスペースXのカーゴドラゴン、右はロシアのプログレス

現在ISSは地表から約420kmの軌道上にあるが、この領域には希薄な大気がわずかに存在し、その抵抗によってISSの高度が下がる。そのためISSは月に1回程度の頻度でリブースト(エンジンの再燃焼)を行い、機速を増し、船体に働く遠心力を高めることで高度を上昇・維持する必要がある。もしこのマニューバを行わなければISSは1~2年で大気圏に再突入する。

こうした理由から、退役後のISSを軌道上に維持するには、現在より高い高度に再配置する必要がある。NASAによると、軌道高度が640~680kmまで引き上げられた場合、ISSの軌道寿命は100年まで延長され、770~810kmであれば500年、1万kmであれば1万年まで延びるとされる。

軌道を上げる手段はあるのか?

しかし、この軌道上昇を行うにはいくつもの課題がある。そのひとつは、ISSを運用するには常駐クルーが必要だということだ。退役後に無人になったISSを高い高度で運用すれば、「現在の機材では深刻な影響を受けるか、不可能になる可能性がある」とNASAは分析している。

また、無人での運用が可能だとしても、ISSを上昇させるには落下させるよりもはるかに大きな推力が必要となるため、「現在、存在しない新しい推進機」と、推進剤を補給するための「タンカー」が必要となる。

ISSを減速させるスペースXのUSDVのイメージイラスト。固定価格制による契約金額は最大8億4300万ドル(1307億円) (c)SpaceX
ISSを減速させるスペースXのUSDVのイメージイラスト。固定価格制による契約金額は最大8億4300万ドル(1307億円) (c)SpaceX
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編集=安井克至

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