宇宙

2026.02.23 10:30

「ISSは高度を上げて保存すべき」米下院がNASAに求める新プランの実現可能性

(c)NASA

このホワイトペーパーの発行と前後して、NASAはISSを太平洋に落とす専用機「USDV」の開発業者としてスペースXを選定した。USDVとは“U.S. Deorbit Vehicle”の略称であり、「米国製軌道離脱機」を意味する。この機体はドラゴン宇宙船をベースとして開発され、従来機の2.6倍(48基)のスラスタ(姿勢制御装置)を搭載。これによって推進力が4倍に強化されるとともに、推進剤の搭載量が6倍に拡張される予定だ。

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ISSを大気圏に再突入させるプランのタイムライン。USDVは落下の1~2年前にISSに接続される
ISSを大気圏に再突入させるプランのタイムライン。USDVは落下の1~2年前にISSに接続される

この強化型のドラゴンによって、秒速約7.5kmで航行しているISSの機速を秒速57m減速すればISSは太平洋に落ちる。しかし、目標の軌道寿命を100年に設定し、高度を640~680kmまで上昇させようとした場合、ISSを秒速120~140mほど加速する必要があり、落とす場合の2.1~2.5倍の推進剤が必要となる。目標軌道寿命が1万年であれば要求される速度変化(デルタV)は秒速760m、推進剤は13.3倍となる。

ホワイトペーパーにはUSDVを軌道上昇に使用するケースは書かれていないが、それが可能だとしてもタンカーによる複数回の推進剤補給が必要になり、大気圏への廃棄と比べてはるかにコストが増すだろう。また、スペースXが開発中の超大型宇宙輸送機「スターシップ」による高度上昇にも触れられているが、同機をISSにドッキングさせ、ISSの構造的な許容範囲内で推進装置を作動するには、非常に高度な技術的課題があるとしている。つまり、スターシップのエンジンが強力すぎるため、ISSが強度的に耐えられない可能性がある。

宇宙デブリのリスク

ISSの軌道高度を上げるうえで、もうひとつ大きな懸念となるのは宇宙デブリだ。宇宙デブリは高度2000km以下に多く分布しているが、現在のISSの軌道高度を超えると劇的に増加し、特に高度750~1000km付近に集中している。

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現在のISSの軌道高度約420kmから上昇すると、高度750~900kmの「ピーク1」に向けてデブリは激増する(NASA/International Space Station Deorbit Analysis Summary/筆者加工)
現在のISSの軌道高度約420kmから上昇すると、高度750~900kmの「ピーク1」に向けてデブリは激増する(NASA/International Space Station Deorbit Analysis Summary/筆者加工)

つまり、軌道寿命を考慮してISSの軌道を上昇させようとすれば、その代償としてデブリの衝突リスクが高まる。高度415kmではデブリと衝突する確率は51年に1度とされるが、高度800kmではその間隔が4年未満にまで短縮するという。こうした条件ではNASAはISSの運用を容認できない。もしこれを強行し、デブリとの衝突が起きた場合には、地球低軌道(LEO)へのアクセスが数世紀にわたって悪化するか、あるいは完全にその道が失われる恐れがあるとNASAは指摘する。

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編集=安井克至

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