キャサリン・モンティラは、2020年に乳がんと診断された際、数分間にわたり極低温に身をさらす施術「クライオセラピー」が炎症の軽減に役立つことを実感したという。彼女は、自宅のあるカリフォルニア州ダンビル近郊の「USクライオセラピー(US Cryotherapy)」ベイエリア店の顧客となった。そうした自身の体験を背景に、2024年には同店を取得してオーナーとなり、事業拡大に向けてさまざまな構想を描いていた。
モンティラは以前、複数のテックスタートアップで経営幹部を歴任し、直近では企業のデータセキュリティやガバナンス分野でAI活用を支援するリミナル(Liminal)のCOO(最高執行責任者)を務めていた。彼女はその知見をUSクライオセラピーの拡大に活かし、研究から標準作業手順書(SOP)の整備、製品開発に至るまで、あらゆるプロセスにAIを取り入れた。
彼女は、AIの活用が成長を加速させたと確信している。化学療法を終えた2ヵ月後の2024年6月に事業を引き継いだ際、従業員は8名で売上高は約30万ドル(約4700万円)だったが、昨年は12名で110万ドル(約1億7000万円)にまで拡大した。「劇的な変化だった。USクライオセラピーの成功要因は、テクノロジーの導入とプロセスの構築によるものだと考えている」と彼女は語る。
モンティラは、一般的な中小企業経営者よりもAIに精通しているが、その恩恵を実感しているのは彼女だけではない。給与計算ソフト大手「ガスト(Gusto)」が2月18日に発表した調査結果によると、他の経営者たちの間でも同様の傾向が見られるという。
AIの利用実態に関する同調査によると、業務における「AIエクスポージャー」(AIを活用できる業務の割合)は、2023年1月の16.4%から2025年11月には16.3%へと、ほぼ横ばいで推移している。これは、主に労働者が新しいAIツールやワークフローを既存の業務に取り入れ、適応させている職種において見られる傾向であると研究は示している。
一方で、AIエクスポージャーが10ポイント高まると、6ヵ月後の月間収益は約2.2%高くなる傾向があると研究者らは指摘している。例えば、月商20万ドル(約3100万円)の企業であれば、平均で月間約4400ドル(約68万円)、年間では5万3800ドル(約830万円)の収益増が見込める計算だ。
AIを導入した企業では、6ヵ月後には従業員数がわずかに増加する傾向も見られた。これは「AIが雇用を減らす」という一般的な通念に一石を投じる結果となっている。なお、この調査はガストの製品を利用する従業員数50人未満の中小・中堅企業の中から、10万社を無作為に抽出して行われた。
「AIを積極的に活用している中小企業では、大規模な人員削減や収益の急減は確認されていない」と、ガストのチーフエコノミストで、同社のエコノミスト、トム・ボーエンと本レポートを共同執筆したアンドリュー・チェンバレンは指摘する。「統計データは、むしろ収益の拡大と雇用の増加を示しており、急激な雇用喪失を示唆するような動きは見られない」。



