先月、世界経済フォーラム(WEF)のためダボスに滞在していた間、AIが「仕事の未来」に与える影響について、際立って異なる2つの予測を耳にした。1つは、AI主導の自動化によって人間の労働者を必要とする度合いが大きく下がり、雇用喪失が大量に発生し、さらには経済の混乱さえ引き起こしかねないという「雇用なき成長」という厳しい見立てだ。もう1つははるかに楽観的な見方で、AIは仕事を自動化するのではなく増強し、人と機械の協働が新たな生産性の時代を切り開き、経済的な果実が広く分かち合われるというものだ。
いつものように真実はその中間に落ち着く可能性が高いが、具体的にどのような姿になるかは、いまのところ誰にも分からない。だからこそ私がダボスから持ち帰った最大の学びは、現地でほとんど注目されていなかった領域、すなわち「仕事の質」にいっそう力を注ぐことの決定的な重要性である。
AIが職の置き換えを引き起こす可能性が高いという点では、合意が広がりつつある。産業革命以降に導入されてきたあらゆる技術がそうであったように、である。歴史的には、別の場所で新たな仕事も生まれてきたが、その多くは新たなスキルを必要とした。
AI時代の「混沌とした中間地帯」では、新たな労働力の課題にも直面する。個々の職務の中で、あるタスクは自動化され、別のタスクは増強されることで、ソフトウェアエンジニアから営業に至るまで職業全体の形が変わっていく。多くの現職者は、現在の役割の中で方向転換を迫られるだろう。そうできなければ、できる人に仕事を奪われるリスクがある。
私たちは、容易に自動化できる仕事を何が何でも守ることにエネルギーを注ぐのではなく、AIと交差する仕事の質を改善し、それに向けて労働者を備えさせるためにできる限りのことを行うべきである。
ダボスでは、職の混乱の規模やスピードから労働者を守り、AIによる生産性向上の恩恵が従業員にも及ぶようにするための選択肢が、専門家から幅広く提示された。欧州の労働組合リーダーたちは、利益分配や、賃金を減らさずに労働時間を短縮することなどの案を示したが、そうした議論は、まだ十分に交わされていない。
一方でダボスの外に目を向けると、労働者の満足度と事業パフォーマンスの双方を高める「仕事の質」の側面を改善することを狙い、より広い雇用主層に受け入れられやすい発想に可能性があることが研究から示されている。
ギャラップが実施し、Jobs for the Future、Families & Workers Fund、W.E. Upjohn Instituteが主導したAmerican Job Quality Studyの定義によれば、質の高い仕事に就いている労働者は40%にとどまる。
同調査は、仕事の質を賃金や福利厚生よりも広く捉える。ただし、公正な賃金と有給休暇が不可欠である点は言うまでもない。質の高い仕事はまた、安全な職場環境、安定して予測可能な勤務スケジュールと無理のない業務量、新たなスキルを学び昇進する機会、そしてAIやその他のテクノロジーの導入を含め、自分の仕事に影響する意思決定への影響力を提供する。
雇用主はAIに関する労働者のアイデアから恩恵を得られる
AIやその他のテクノロジーの導入に関して、労働者は職場で新しいツールが採用されるプロセスに、より大きな発言権を求めている。一般に、テクノロジー導入に対する従業員の影響力が大きいほど、仕事の満足度は高いと、仕事の質に関する調査は結論づけている。
しかし、テクノロジーに関する意思決定で、意味のある発言権を持つ従業員は比較的少ない。導入への影響力が「大きい」(12%)または「ある程度ある」(25%)と答えたのは3分の1強にすぎない。一方で、影響力は「大きいべきだ」(29%)または「ある程度あるべきだ」(42%)と考える人は3分の2超にのぼることが、同調査で示された。
雇用主は、自社と従業員の双方のために、AI導入を「最終的に何を実現したいのか」を見据えて始め、プロセスに労働者を組み込むべきである。
ダボスのあるパネルで、AFL-CIO(全米労働総同盟・産別会議)の会長エリザベス・シュラーは、企業リーダー、政策立案者、技術者らのパネリストに対し、現場ではこれがどのように展開しているかを語った。AFL-CIOはマイクロソフトと協力し、さまざまなAI搭載ツールを使う必要がある労働者を、新たな業界特化型テクノロジーの設計プロセスにおいて、技術者と並べて参加させているという。彼女は、バス運転手が研究室で開発者とともに、交通分野におけるAI活用を共同設計していると指摘した。
このアプローチは、AIシステムが技術的効率だけでなく、実際の労働条件と、「労働者のウェルビーイング」と「事業パフォーマンス」をともに高めるという共通目標を反映することを後押しする。
雇用主はAIで仕事の質を高め、人材をつなぎとめられる
雇用主にはまた、コスト削減だけに焦点を当てるのではなく、労働者の利益につながる形で生産量を高めたり効率化を生み出したりすることを視野に、AIを導入する責任がある。ダボスでシュラーも参加した対話の司会を務めたスタンフォード大学デジタル・エコノミー・ラボの所長エリック・ブリニョルフソンは、自身が共著した研究に触れ、経験の浅いコールセンターの労働者がAIを使うことで急速に改善し、AIを使わない同僚が6カ月かかる水準のカスタマーサービスに2カ月で到達したことが示されたと述べた。
しかも、これは一例にすぎない。AIには、たとえばより高度なモデリングによって、時間給労働者のより正確なシフト作成を可能にするなど、生産性と定着を左右する仕事の質の別の側面を改善する潜在力もある。初期のエビデンスは、労働者の健康と安全の強化にも効果があることを示している。
仕事の質を高める可能性には、労働者の成長と能力開発も含まれる。American Job Quality Studyによれば、過去1年に、雇用主が提供または費用を負担する研修・教育に参加した従業員は半数未満(45%)にとどまる。しかも、学歴が高くない従業員や小規模組織で働く従業員では参加率がより低い。まさに、職場で新たなスキルを学ぶことの恩恵を最も受け得る労働者たちである。
雇用主は、必要な労働力を設計するために研修投資を増やすべきだ
ダボスで幅広い合意が得られた点の1つは、リスキリングの重要性が中心にあるということだった。ほぼすべての労働者がスキルを高める必要があり、一部の労働者は大幅なスキル向上が求められる。彼らはAIの使い方だけでなく、創造性や、AIの出力品質を見極める力といった、AIには再現できない人間固有のスキルをどう高めるかも理解する必要がある。また、より多くの仕事がテクノロジーによって増強されていくなかで、AIとどう協働するかも知らなければならない。さらに、多くの人がまったく新しい職業や分野へ移る必要に迫られる可能性もある。
しかし、AI時代に必要となる膨大なスキル向上の責任を誰が負うべきかについては、依然として意見が分かれている。労働市場が、私たちが何世代にもわたって見たことのない速度で変化するなか、民間と公共のセクターはいずれも重要な役割を担う。
5年後、10年後に存在する仕事の数や種類は、テクノロジーだけで決まるものではなく、今日下される選択に左右される。雇用主、政策立案者、技術者には、AIが労働力にもたらし得る最良の結果を構想し、その未来に向けて協働する機会がいまある。



