その後、豪雨や地震による災害のたびに、この装置が被災地で活躍することになった。緊急時には、国や自治体の担当者から齋藤のもとに電話がかかってくる。18年の西日本豪雨の際には、水道行政を所管していた厚生労働省(現在の所管は国土交通省)の担当者から連絡があった。「愛媛県宇和島市の浄水場が被害に遭い、代替となる浄水装置を持ってきてほしい」という。
これを賄うには、1日に6400トンの水を処理する能力が必要だった。ところが、社内にあった浄水装置の在庫をかき集めても処理能力の合計は4000トンほど。倉庫に残っていたのは、東京五輪のカヌー競技で使用するために東京都が購入した据え置き型の浄水装置だけだった。
「結局、厚労省が東京都に話をつけて、この装置についても宇和島市に送られることになりました。気候変動の影響で毎年のように豪雨災害が起きるようになっていたこともあり、西日本豪雨を機に、合計で1万トン以上の処理能力の装置を常に在庫でもっておこうと決めたのです」
最近では、25年10月の八丈島の台風被害、24年1月の能登半島地震の際にも導入された。台風・洪水被害に見舞われたフィリピンやラオスも含めると、災害復旧は国内外で40件近い実績がある。日本原料は現在、1日1万5000トンの水(4万5000人分に相当)を処理できる浄水装置の在庫を常に用意しているという。
そして重要なのは、被災した浄水場の代替として設置した装置は、復興後も恒久的な設備として地域の水処理を担っているということだ。日本原料のモバイルシフォンタンクは、日本、そして世界で人々の暮らしを支え続けている。
さいとう・やすひろ◎日本原料代表取締役社長。玉川大学工学部卒業。横河電機株式会社でSEとして働いた後、祖父が創業した日本原料に入社。1997年にろ過砂を甦らせる「シフォン洗浄技術」を開発、2002年にろ過材交換不要の浄水装置「シフォンタンク」を、2005年には可搬式浄水装置「モバイルシフォンタンク」を開発。2013年には黄綬褒章を受章。
『Forbes JAPAN 2026年4月号』では、規模は小さくても高い付加価値を誇る中小企業を表彰する「スモール・ジャイアンツ」を特集。日本原料の「世界で勝つビジネスモデル」についても詳報している。


