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2026.02.25 11:15

シリコンバレー発「AI創薬」企業に聞く、地政学リスクとは

東京都内で、元ソニーの知人に「ぜひ会ってほしい」と紹介されたのが、シリコンバレー発のAIメディカルスタートアップ「GEN1E(ジーニー)」だ。日頃から日本でもAI×医療の話を耳にするが、彼らの話を聞くうちに私は、これは単なるテクノロジートレンドでも、医療費抑制の議論でもない。供給網、データ、知財を含む戦略領域であり、国家安全保障にも関わるテーマだと痛感した。

創業者のRitu Lalは大手製薬で20年、FDA承認3件・PMDA承認1件、IND申請15件超という実績を積んできた研究開発のプロフェッショナルだ。共同創業者のSoujanya BhumkarはIT業界の連続起業家で、Yahoo!ではグローバル・パートナーシップを率いた。異なるキャリアを持つ二人が挑むGEN1Eの対話は、超高齢化の日本に必要なAI創薬という文脈にとどまらず、地政学のレンズを通すことで、その必然性がより鮮明になる。 

1) GEN1Eとは何か? 通常のAI創薬と何が違うのか?

GEN1Eを一言で言うなら、AIで「新薬の候補を自動生成する」ことよりも、AIで「新薬が当たる確率を上げる仕組み」そのものを組み直す会社だ。AI創薬と聞くと、多くの人は「AIが薬の候補を次々に作り出す」イメージを思い浮かべるだろう。しかしGEN1Eは、薬の候補よりも患者にフォーカスをあて、スピードよりも確度を重要視する。

鍵になるのが、見えている症状ではなく、体の中で何が原因になっているか(病気の成り立ち)で患者を分けていく「AIを用いた病態タイプ分類(AI支援エンドタイピング)」だ。たとえば同じように咳が続く患者でも、背景にある炎症のタイプや免疫の動きが違えば、効く治療は変わり得る。GEN1Eは臨床データに加え、血液などから得られる生体情報(マルチオミクス)も重ねて、「薬が効きうる患者群」を先に見極める。その上で、患者の中で起きている原因(炎症や免疫の動き方)に対して、どの効き方の薬を当てるのが良いか、臨床試験をどう設計すべきかを組み上げる。

従来の創薬は、一般に、標的を決め、薬の候補を作り、前臨床を経て、臨床時に薬の効果が分かるという線形モデルで進む。だがGEN1Eは順序を反転させる。患者の違いを先に見える化し、手戻りを減らすことで、成功確率そのものを再設計する。単にAIで開発スピードを上げるのではなく、効く可能性が高い患者群を先に見極めたうえで、薬の選択や試験設計を最適化し、臨床で成功する確率を高める。結果として、開発の時間とコストを圧縮し得るのだ。

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文=西村真里子

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