彼らの結論は明快だ。患者の緊急性、技術準備、政策モメンタム、そしてグローバル競争が同時に交差している。だから今動く必要があるというのだ。
さらにGEN1Eは、「いま行動しない」場合の未来を、地政学の言葉で語る。先端の発見・開発能力が少数国に集中すれば、次世代医薬品へのアクセスは不均衡になり得る。結果として、依存が生まれ、より高く払い、より長く待ち、何が誰のために開発されるかへの影響力も持ちにくくなる。そして将来のアウトブレイクや新たな脅威が来たとき、一人ひとりの特徴に合わせた治療を即座に組み立てられる力。それがどれだけ多くの命を救えるかを、GEN1Eは見据えている。彼らが鳴らす警鐘はシンプルだ。『まだ大丈夫だろう』と現状維持を貫いていること自体が、実は最大の危機を招いているのだと。
(筆者注)この指摘を聞きながら、私はコロナ禍で日本がワクチン供給の偏在に直面した記憶を思い出していた。もちろん状況は単純比較できないが、「医療の供給とアクセス」が国家の安全安心に直結する、という感覚だけは現実として共有されている。
日本についてGEN1Eは、「次の2〜5年」が重要だと言う。理由は三つ。第一に、疾患負担が加速し、医療・社会コストが急速に上がっていること。第二に、次の10年はAIとヘルスケアにおける日本の長期競争力を決め、AI駆動の精密医療が世界標準になっていくこと。第三に、日本には高品質な臨床、信頼される機関、統合システム、人材といった例外的な強みがあること。これらを早期に接続できれば、日本は採用者で終わらず、共創者として標準づくりに参加できると彼らは私に教えてくれる。
私はAI創薬の専門家ではない。ただ、GEN1Eから受け取ったのは「患者ファーストの方法論」だけではなく、創薬を地政学として見よというアラートだった。この論点を日本の読者と共有し、次に何を考え、どこで連携し、どう意思決定すべきかを議論する入口にしたい。その思いで、ここに彼らのメッセージをできる限り原文に忠実に記した。
かつてのAIは効率化の象徴だったが、GEN1Eが示すのは確信のためのAIだ。創薬のプロセスを逆転させる彼らの発想は、供給網や知財といった地政学的リスクを内包しながらも、その先にある破壊的イノベーションがスタンダードになった時、私たちの「健康」は、運任せのものから、よりパーソナルで予測可能なものへと書き換えられるに違いない。


