3) なぜ「今」行動すべきなのか。GEN1Eが強調した創薬地政学の論点
東京で彼らと話していて、途中から自分のメモの重心が変わった。最初は「AI創薬の新しいやり方」を聞きに来たはずなのに、会話が進むほど、これは単なるテクノロジー進化論ではなく、国のレジリエンスにまで波及しうる話だと感じ始めていた。GEN1Eが繰り返したのは、患者ファーストの重要性だけではない。医療イノベーションが、いま国の戦略として扱われ始めているという現実だった。
彼らは何度も「いまこそAI創薬に日本の多くの方が関与すべき瞬間だ」という。その理由を医療分野に不慣れな私に向けて教えてくれた。テクノロジー面では、AIが十分に成熟し、「単なるパターン認識を超えた深い生物学理解」を支えられる段階に入った。より豊かな臨床データが規模をもって利用可能になり、計算インフラの進化によって複雑なモデルを速く繰り返し学習・実行できるようになり、AIモデル自体も創薬サイクル全体を統合できるように成熟した。だからこそ、数年前には不可能だった形で、AIガイドの精密創薬が実務的になっているという。
患者面では、とりわけ日本のような高齢化社会で、慢性炎症や免疫疾患が増えている。患者ニーズとエコシステムの供給能力のギャップが広がっているので、このギャップが放置されれば、患者の待機年数が増え、家族、介護者、病院を含む医療のエコシステム全体への負荷がさらに高まるとGEN1Eは見ている。
そして政策・地政学面で、ヘルスケア・イノベーションはますます戦略領域になった。日本も国としてAI推進を通じて、医療におけるAI活用と競争力強化を後押しする意思を示している。GEN1Eがここで問うのは、「日本がAI創薬を導入するかどうか」ではない。日本が早期に関与し、次世代の創薬・開発の時代のルールを作れる側に回れるかどうかだ。
同時に、医療の世界でも中国が大きく動いていることを、彼らは強く指摘した。中国はバイオファーマ資産とライセンス活動の主要な供給源になりつつあり、GEN1Eの把握では、2025年だけでも中国から導入(in-licensed)された資産が過去最多となり、大手製薬のインライセンス活動の「ほぼ半分」が中国由来(アジア本社のライセンサーを含む)だったという。ここで彼らが言いたいのは、「中国が製造拠点として台頭した」という話ではない。有望なバイオ資産の供給源として、ライセンスの地図そのものが塗り替わっているという話である。


