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2026.02.24 13:30

アンソロピック「暴走しないAI」が稼ぐ唯一の道:共同創業者 ダニエラ・アモデイ

ダニエラ・アモデイ|アンソロピック共同創業者兼社長

ROIの壁と「コーディング」という解

しかし、理想だけでは立ち行かない。ダニエラたちが高みを目指して登っている間も、地上の市場環境は厳しさを増している。巨額の資本を背負ったプレイヤーたちが、終わりのないスペック競争を繰り広げている。一方で、顧客企業の間には疲労感も漂う。最大の懸念は「ROI(投資収益率)」にある。「生成AI導入企業の95%が利益を出せていない」という調査結果もあるなか、企業は今、実証実験(PoC)の段階を終え、シビアにそろばんをはじき始めている。「倫理的に正しいAI」は、果たして「稼げるAI」になりうるのか? その問いに対するアンソロピックの回答の一つが、コーディングだ。

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前出のマクロリーが中心になってまとめた「Anthropic Economic Index(アンソロピック経済指標)」によると、世界的に見てもソフトウェア開発はAIの最も主要なユースケースの一つである。コード生成は、成果物が明確で、生産性向上が数字で測りやすいため、ROIを証明しやすい。日本でも、楽天やSIer(システムインテグレーター)が全社的に導入を進めている。東條によると、「数百人のエンジニアがいる企業で、社長の号令によりClaude Codeが導入されるケース」も増えているという。

だが、アンソロピックの狙いは単なる「自動化ツール」の提供ではない。マクロリーが指摘する興味深いデータがある。「日本は、世界平均と比べてコーディング以外の用途、例えば事務作業や翻訳、学術研究といった分野での利用が多い」というものだ。利用が進んでいる国ほど、「自動化」から、人間の能力を「拡張」する方向へシフトしていく傾向がある。つまり、コーディングは確かにROI向上の近道だが、日本市場ではさらに進んで「拡張」という別の価値を見出しているのだ。コーディングという分かりやすい「自動化」でROIの壁を突破し、徐々に人間の創造性や判断力をサポートする「パートナー」へと浸透していく。これが、ダニエラたちが描く成長のロードマップである。

特に日本市場では、アンソロピックが安全性と信頼を重視する姿勢は、強力な差別化要因となる。「日本のお客様は、データレジデンシー(データの保管場所)やセキュリティを非常に気にされます」と東條は話す。AWSやグーグル・クラウドといった信頼できるパートナーと組み、大企業の固い扉を一つひとつ開けていく。派手さはないが、一度信頼を得れば長く続く。

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順風満帆に見えるアンソロピックだが、死角がないわけではない。25年9月、ICONIQ Capitalが主導したシリーズFで約130億ドルを調達。企業評価額は約1830億ドルに達した。アマゾンやグーグルといった巨大テック企業も出資者に名を連ねる。これほどの巨額マネーが動けば、当然、投資家からの圧力は高まる。市場ではIPO(新規株式公開)の噂が絶えない。もし上場すれば、四半期ごとの決算という短期的なプレッシャーに晒されることになる。公益と利益のバランスをどう保ち続けるのか。最大の懸念は「ミッション・ドリフト(理念の漂流)」だ。組織が急拡大し、従業員が2000人を超え、顧客企業が30万社に達するなか、創業時の純粋な理念を維持し続けられるか──。

ダニエラ自身、その難しさを認めている。「PBCという枠組みは、『哺乳類』という分類のようなものです。牛も象も哺乳類ですが、中身は全然違いますよね。PBCであることは必要条件ですが、それだけで十分ではないのです」

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文=井関庸介 写真=キャロリン・フォン

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