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2026.02.24 13:30

アンソロピック「暴走しないAI」が稼ぐ唯一の道:共同創業者 ダニエラ・アモデイ

ダニエラ・アモデイ|アンソロピック共同創業者兼社長

アンソロピックには二人の「アモデイ」がいる。AIのビジョナリーとして知られるCEOで兄のダリオ、そして事業と組織を束ねる社長で妹のダニエラだ。彼女は二人の関係を「陰と陽」と表現する。

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「スキルセットはまったく異なります。だからこそ、お互いを必要としているのです」

兄が技術の極北を目指すなら、妹はそれを支える人間を見つめる。国際開発からキャリアをスタートし、ストライプやOpenAIでリスク管理や政策チームを率いたダニエラの背景は異色といえる。彼女が経営において何より重視するのは、ソフトスキル、とりわけ人間性についてだ。米国事業責任者のケイト・ジェンセンは言う。

「ダニエラは企業文化として仲間同士、お互いを大切にすることを単に推奨するだけでなく、強く求めているのです」

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ダニエラは配慮や優しさを業務命令レベルで求めているのだ。だが、彼女の言う優しさは、馴れ合いの集団を作ることではない。「あなたのことを思っているからこそ、あえて言わせて」。その厳しい優しさがあるからこそ、アンソロピックは社内政治が驚くほど少ないという。政治的駆け引きのなさと、高い信頼関係。それが、彼女が作り上げた組織のOSである。「感情的な成熟」。ダニエラは自社の強みをそう呼ぶ。技術的な知能(IQ)だけでなく、感情的な知能(EQ)の高い組織。AIという未知の、そして時として脅威となりうる技術を扱うからこそ、それを作る人間たちの精神的な成熟度が問われるのだ。

なぜ、そこまで文化にこだわるのか。それは、彼らが開発しているAIが、一歩間違えれば社会に甚大な被害を与えかねない存在だからである。これらを技術的なバグではなく、組織的な欠陥の結果だと捉える彼らにとって、企業文化は安全装置そのものだ。AI企業のように社会的に大きな影響力をもつ企業では、「こぼれ球を見過ごすことは許されない」と、アンソロピックの日本法人代表を務める東條英俊は語る。

「だからこそ、落ちそうなボールがあれば必ず手を伸ばす。そういうマインドセットをもつ人を採用しています」(東條)

この徹底した慎重さは、一見すると開発スピードを削ぐように見えるかもしれない。競合他社が新機能を次々とリリースし、派手なデモを行うなか、アンソロピックの歩みは地味に映ることもある。だが同社が目指しているのは、短期的なシェア争いではない。ダニエラたちが掲げる戦略、それは「Race to the top(高みを目指す競争)」である。透明性を担保し、説明責任を果たし、堅牢な安全基準を設ける。そうすることで、競合他社も巻き込みながら、業界全体の基準を「高み」へと引き上げる。アンソロピックの主席エコノミストを務めるピーター・マクロリーはこう話す。

「私たちはデータを公開し、研究者が分析できるようにしています。そうすることで、他のフロンティア企業にも『公共の価値』を見出してもらい、社会全体でこの経済的移行を乗り越えたいのです」

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文=井関庸介 写真=キャロリン・フォン

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