リーダーシップ

2026.02.22 11:00

ミラノ五輪で絶対王者マリニンも陥った、「恐怖心の罠」を好奇心で克服するリーダーシップ

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安全策がもたらす代償

筆者はこのことを、テニスの大会に参加していた頃の苦い体験から学んだ。テニスの試合中には、5-4、デュース、マッチポイントと、スコアが緊迫する場面がある。恐怖心が忍び寄ると、直感は、安全策をとるようささやきかける。「とにかくボールを返せ。リスクを避けろ。失敗するな」と。しかし、安全策を選んだ代償として試合に敗れてしまうこともしばしばだった。

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この状況を克服するターニングポイントは、恐怖心の排除ではない。心の内で自分に投げかける問いを、シフトさせることが重要だ。「失敗するな」の代わりに、「自分らしくプレーしたら何が起きるだろう?」と問いかけるのだ。

こうした微妙なシフトがすべてを変える。恐怖心は影を潜め、好奇心が膨らんでいく。恐怖心は防御反応であるのに対し、好奇心はのびのびと実力を発揮させてくれる。

そして、この心理的な作用が及ぶのは、テニスに限った話ではない。先日も、ミラノで行なわれた冬季五輪のフィギュアスケート男子シングルで、イリア・マリニン選手に同様のことが起きたのを、私たちは目撃した。

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世界選手権で2度の王者に輝き、代名詞となった4回転アクセルを成功させたことで名高いマリニンは、とてつもなく大きな期待とともにフリーの演技に臨んだ。五輪での金メダル獲得は確実に感じられた。

だが、プレッシャーがかかる状況では、人の脳は「チャンス」を認識できなくなり、「脅威」だけに注意を向けるようになる。五輪の晴れ舞台が、危険とイコールで結ばれてしまうのだ。

こうした心理状態に陥ると、アスリートはしばしば、体が無意識に動く状態(長年の練習の成果が体に刻まれたものだ)から、意識でこと細かに体をコントロールしようとする状態に移行する。体を信頼して任せるはずが、考えすぎてしまうのだ。流れに身を任せるのではなく、意識で管理しようとする。マリニンものちに、この時の状況を「choked(ガチガチになってしまった)」と振り返っている。

神経学的に見ると、何が起きていたのだろうか? パフォーマンスの専門家、スティーブ・マグネスによれば、マリニンは「自動操縦モード」から、「超管理モード」に移行してしまった可能性が高いという。確実に決めたいという欲が、並外れたパフォーマンスを可能にする仕組みそのものを阻害してしまったということだ。

筆者も、この感覚は痛いほどわかる。コーチングやテニスを始める前、フィギュアスケート選手だったからだ。当時は、ジャンプをコントロールしようと頑張れば頑張るほど、体が硬直してしまった。

安全策とは、ニュートラルなものではない。実際には、人の心と体を縮こまらせるものだ。そうなってしまうと、実力を発揮することなどできない。

同様のパターンは、リーダーシップにも現れる。ミーティングで大胆なアイデアを提案することをやめたり、「完璧」になるまで先延ばししたりしてしまうのだ。

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翻訳=長谷睦/ガリレオ

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