これに対し、蟹江氏は「一般的に、水平リサイクル(使用済みの部品や素材を回収し、再び同等の部品の原料として再利用すること)が理想とされていますが、そこにこだわらず、たとえば粉砕したものを洋服の素材や防音材料などにすれば、(再利用の)可能性がどんどん広がるのでは」と問いかけた。
すると加古氏は、次のように回答。「実際、燃料電池車(FCV)に搭載された高圧水素タンクには、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を使っています。当社では製造工程で生じた端材を大林組と共同で、コンクリートの補強用繊維として活用する取り組みを進めています。また、社内で回収したペットボトルをカーシート表皮に使用するなど、異業種との連携も視野に入れたリサイクルの可能性も探っています」(加古)。
蟹江氏は「業界を閉じず、地球全体でバランスが取れるようにするのが美しい」と述べ、異業種間の協力や、街全体での資源循環の重要性を主張。そこにビジネスチャンスもありそうだと語ると、大きく頷く観客の姿があった。

また、車両製造時におけるCO2排出量について加古氏は、最も大きな割合を占めるのが塗装工程だと指摘し、焼き付けや乾燥の工程を短縮する技術や、塗装を粘着剤付きのカラーフィルムに置き換える開発を進めていることを明かした。そして、「フィルムは張り替えて楽しむこともでき、新たな価値を提供する可能性がある一方、複雑な形状に貼るには意匠設計の工夫が必要で、端材も発生します。その活用もセットで考えていく必要があります」と課題を挙げた。

欧州ではなく、日本が「世界のスタンダード」になる
終盤、加古氏はトヨタ自動車がCO2の回収・再利用技術の研究に取り組んでいることも語った。たとえば工場の排出ガスからCO2を回収し、それを燃料に変えるような技術や、水素と二酸化炭素からメタンを合成する技術、微生物による有機廃棄物の分解から水素を得る技術などだ。まだまだ効率性をはじめ課題はあるものの、DXやAIの活用により研究を加速させているという。
「カーボンニュートラルを達成するために、江戸時代の生活に戻るわけにはいきません。技術のブレイクスルーとウェルビーイングのバランスをどう取っていくかが、材料技術の使命のひとつです」(加古)
最後に蟹江氏は、こう提案した。「欧州は規制を通じて自分たちの技術を育て、産業競争力を高めようとしていると思うのです。日本も受け身ではなく、自分たちがグローバルスタンダードをつくる側になるというやり方もあるはずです」。
加古氏は、「日本はどうしても欧州に押され気味になりますが、(当社として)ぜひそうできるようになっていきたい」と意欲を示した。
蟹江憲史◎かにえ・のりちか 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授、Keio STAR共同代表。国際関係論を背景に、気候変動問題の国際政治、長期削減目標の策定、SDGsなど持続可能性に関する幅広いプロジェクトを手がける。国連グローバル・サステナブル・ディベロップメント・レポートの執筆にも参画。
加古 慈◎かこ・ちか トヨタ自動車 先進技術開発カンパニー Executive Vice President。入社以来、内装材料の開発、ブランド企画、製品開発などを経て、現在は材料技術領域のマネジメントを担当。レクサスUXのチーフエンジニアとしての経験を持ち、金属、樹脂、塗装、触媒など幅広い材料分野の先行・先端研究を率いる。


